「こいつ――」
しかし、悪態あくたいも呪のろいも一言も言わないうちに、頭のてっぺんに鋭するどい痛みを感じた。ハリーは灰を吸い込んで咽むせた。炎の中をぐいぐい引き戻されて行くのを感じた。そしてぎょっとするほど唐突とうとつに、ハリーは、だだっ広い蒼あおざめたアンブリッジ先生の顔を見上げていた。アンブリッジはハリーの髪かみをつかんで暖炉だんろから引き戻し、ハリーの喉のどを掻かっ切らんばかりに、首をぎりぎりまで仰向あおむかせた。
「よくもまあ」アンブリッジはハリーの首をさらに引っ張って天井を見上げさせた。「二匹もニフラーを入れられたあとで、このわたくしが、汚けがらわしいゴミ漁あさりの獣けものを一匹たりとも忍び込ませるものですか。この愚おろか者。二匹目のあとで、出入口には全部『隠おん密みつ探たん知ち呪じゅ文もん』をかけてあったのよ。こいつの杖つえを取り上げなさい」アンブリッジが見えない誰かに向かって叫ぶと、誰かの手がハリーのローブのポケットを探り、杖を取り出す気配がした。
「あの子のも」ドアのそばで揉もみ合う音が聞こえ、ハリーはハーマイオニーの杖も、たったいまもぎ取られたことがわかった。
「なぜわたくしの部屋に入ったのか、言いなさい」アンブリッジはハリーの髪かみの毛をつかんだ手をガタガタ振った。ハリーはよろめいた。
「僕――ファイアボルトを取り返そうとしたんだ」ハリーがかすれ声で答えた。
「嘘うそつきめ」アンブリッジがまたハリーの頭をガタガタ揺すぶった。「ファイアボルトは地ち下か牢ろうで厳きびしい見張りをつけてある。よく知ってるはずよ、ポッター。わたくしの暖炉だんろに頭を突つっ込こんでいたわね。誰と連れん絡らくしていたの」
「誰とも――」ハリーはアンブリッジから身を振り解ほどこうとしながら言った。髪の毛が数本、頭皮と別れ別れになるのを感じた。
「嘘つきめ」アンブリッジが叫さけんだ。アンブリッジがハリーを突き放はなし、ハリーは机にガーンとぶつかった。すると、ハーマイオニーがミリセント・ブルストロードに捕つかまり、壁かべに押しつけられているのが見えた。マルフォイが窓に寄より掛かかり、薄笑うすわらいを浮かべながら、ハリーの杖つえを片手かたてで放ほうり上げてはまた片手で受けていた。