冷たい暗い目がハリーを抉えぐるように見み据すえた。ハリーは怯ひるまずに見返し、一心いっしんに夢で見たことに意識を集中した。スネイプが自分の心を読んで理解してくれますように……。
「こいつを尋じん問もんしたいのよ」アンブリッジが怒ったように叫さけび、スネイプはハリーから目を逸そらして怒りに震ふるえるアンブリッジの顔を見た。「こいつに無理にでも真実を吐はかせる薬がほしいのっ」
「すでに申し上げたとおり」スネイプがすらりと答えた。「『真しん実じつ薬やく』の在庫ざいこはもうありません。ポッターに毒薬を飲ませたいなら別ですが――また、校長がそうなさるなら、我わが輩はいとしては、お気持はよくわかると申し上げておきましょう――だが、お役には立てませんな。問題は、大方おおかたの毒薬というものは効きき目が早すぎ、飲まされた者は真実を語る間もないということでして」
スネイプはハリーに視線しせんを戻した。ハリーは何とかして無言で意思を伝えようと、スネイプを見つめた。
ヴォルデモートが神しん秘ぴ部ぶでシリウスを捕とらえた。ハリーは必死で意識を集中した。ヴォルデモートがシリウスを捕らえた――。
「あなたは停てい職しょくです」アンブリッジ先生が金切かなきり声ごえを上げ、スネイプは眉まゆをわずかに吊つり上げてアンブリッジ先生を見返した。「あなたはわざと手伝おうとしないのです もっとましかと思ったのに。ルシウス・マルフォイが、いつもあなたのことをとても高く評ひょう価かしていたのに さあ、わたくしの部屋から出て行きなさい」
スネイプは皮肉ひにくっぽくお辞じ儀ぎをし、立ち去りかけた。騎き士し団だんに対していま何が起こっているかを伝える最後の望みが、いまドアから出て行こうとしている……。
「あの人がパッドフットを捕つかまえた」ハリーが叫んだ。「あれが隠されている場所で、あの人がパッドフットを捕まえた」
スネイプがアンブリッジのドアの取っ手に手を掛かけて止まった。
「パッドフット」アンブリッジがまじまじとハリーを見て、スネイプを見た。「パッドフットとは何なの 何が隠されているの スネイプ、こいつは何を言っているの」
スネイプはハリーを振り返った。不ふ可か解かいな表情だった。スネイプがわかったのかどうか、ハリーにはわからなかった。しかし、アンブリッジの前で、これ以上はっきり話すことはとうていできない。
「さっぱりわかりませんな」スネイプが冷たく言った。「ポッター、我輩に向かってわけのわからんことを喚わめきちらしてほしいときは、君に『戯たわ言ごと薬やく』を飲用いんようしてもらおう。それから、クラッブ、少し手を緩ゆるめろ。ロングボトムが窒ちっ息そく死ししたら、さんざん面倒な書類を作らねばならんからな。しかもおまえが求きゅう職しょくするときの紹しょう介かい状じょうに、そのことを書かねばならなくなるぞ」
スネイプはピシャリとドアを閉め、残されたハリーは前よりもひどい混こん乱らん状じょう態たいに陥おちいった。スネイプが最後の頼みの綱つなだった。アンブリッジを見ると、怒りとイライラで胸を波打たせ、ハリーと同じように混乱しているように見えた。