森の取とっつきの木立こだちの、ひんやりした木陰こかげに入ったとき、ハリーはなんとかしてハーマイオニーの目を捕とらえようとした。さっきからいろいろむちゃなことをやらかしはしたが、杖つえなしで森を歩くのはそれ以上に無む鉄てっ砲ぽうだと思えた。しかし、ハーマイオニーは、アンブリッジを軽蔑けいべつしたようにちらりと見て、まっすぐ森へと突っ込んでいった。その速さときたら、短足のアンブリッジが追いつくのに苦労するほどだった。
「ずっと奥なの」イバラでローブを破られながら、アンブリッジが聞いた。
「ええ、そうです」ハーマイオニーが言った。「ええ、しっかり隠されてるんです」
ハリーはますます不安になった。ハーマイオニーはグロウプを訪たずねたときの道ではなく、三年前、怪かい物ぶつ蜘ぐ蛛ものアラゴグの巣すに行ったときの道をたどっていた。あのときハーマイオニーは一いっ緒しょではなかった。行く手にどんな危険があるのか、ハーマイオニーは知らないのかもしれない。
「えーと――この道で間違いないかい」ハリーははっきり指摘してきするような聞き方をした。
「ええ、大だい丈じょう夫ぶ」ハーマイオニーは不自然なほど大きな音を立てて下草したくさを踏ふみつけながら、冷たく硬かたい声で答えた。背後で、アンブリッジが倒れた若木に躓つまずいて転んだ。二人とも立ち止まって助け起こしたりしなかった。ハーマイオニーは、振り返って大声で「もう少し先です」と言ったきり、どんどん進んだ。
「ハーマイオニー、声を低くしろよ」急いで追いつきながら、ハリーが囁ささやいた。「ここじゃ、何が聞き耳を立ててるかわからないし――」
「聞かせたいのよ」ハーマイオニーが小声で言った。アンブリッジがやかましい音を立てながら後ろから走ってくるところだった。「いまにわかるわ……」
ずいぶん長い時間歩いたような気がした。やがて、またしても密生みっせいする林冠りんかんがいっさいの光を遮さえぎる森の奥深くへと入り込んだ。前にもこの森で感じたことがあったが、ハリーは、見えない何物かの目がじっと注がれているような気がした。
「あとどのくらいなんですか」ハリーの背後で、アンブリッジが怒ったように問い質ただした。
「もうそんなに遠くないです」薄暗うすぐらい湿った平地に出たとき、ハーマイオニーが叫さけんだ。
「もうほんのちょっと――」
空くうを切って一本の矢が飛んできた。そしてドスッと恐ろしげな音を立て、ハーマイオニーの頭上の木に突つき刺ささった。あたりの空気が蹄ひづめの音で満ち満ちた。森の底が揺ゆれているのを、ハリーは感じた。アンブリッジは小さく悲鳴ひめいを上げ、ハリーを盾たてにするように自分の前に押し出した。