群れの後方の顎あごひげのケンタウルスが叫んだ。
「こいつらは頼みもしないのにここに来た。つけを払わなければならない」
そのとおりだという唸り声が湧わき起こった。そして月毛つきげのケンタウルスが叫んだ。「あの女のところへ連れていけ」
「あなたたちは罪つみのないものは傷きずつけないって言ってたのに」ハーマイオニーはこんどこそ本物の涙を頬ほおに伝わらせながら叫んだ。「あなたたちを傷つけることは何もしていないわ。杖つえも使わないし、脅おどしもしなかった。私たちは学校に帰りたいだけなんです。お願いです。帰して――」
「我々全員が裏切うらぎり者のフィレンツェと同じわけではないのだ、人間の女の子」灰色のケンタウルスが叫ぶと、仲間なかまから同調する嘶いななきがさらに湧き起こった。「我々のことを、きれいなしゃべる馬とでも思っていたんじゃないかね 我々は昔から存在する種族だ。魔法族の侵しん略りゃくも侮ぶ辱じょくも許しはしない。おまえたちの法律は認めないし、おまえたちが我々より優ゆう秀しゅうだとも認めない。我々は――」
我々がどうなのか、二人には聞こえなかった。そのとき、開けた平地の端はしでバキバキという大だい音おん響きょうが聞こえてきたのだ。あまりの物音に、ハリーも、ハーマイオニーも、平地を埋めた五十余頭よとうのケンタウルスも、全員が振り返った。ハリーを捕つかまえていたケンタウルスの両手がさっと弓と矢や立たてに伸び、ハリーはまた地上に落とされた。ハーマイオニーも落ちた。ハリーが急いでハーマイオニーのそばに行ったとき、二本の太い木の幹みきが不気味に左右に押し開かれ、その間から巨人グロウプの奇怪きっかいな姿が現れた。
グロウプに一番近かったケンタウルスが後退あとずさりし、背後にいた仲間にぶつかった。平地はいまや弓と矢が林立りんりつし、いまにも放はなたれんとしていた。鬱蒼うっそうとした林冠りんかんのすぐ下にぬーっと現れた灰はい色いろ味みを帯びた巨大な顔を的まとに、矢は一斉いっせいに上に向けられている。グロウプの捻ねじ曲がった口がポカンと開いている。レンガ大の黄色い歯が、朧おぼろげな明かりの中で微かすかに光るのが見えた。泥色どろいろの鈍にぶい目が、足元の生き物を見定めるのに細くなった。両方の踵かかとから、ちぎれたロープが垂たれ下がっている。
グロウプはさらに大きく口を開いた。
「ハガー」