男に喉のどをきつく締しめつけられ、ハリーは息ができなかった。涙で霞かすんだ目で、ハリーは二、三メートル先でシリウスが死喰い人と決闘けっとうしているのを見た。キングズリーは二人を相手に戦っている。トンクスはまだ階段の半分ほどのところだったが、下のベラトリックスに向かって呪文を発射はっしゃしていた――誰もハリーが死にかけていることに気づかないようだ。ハリーは杖を後ろ向きにし、男の脇腹わきばらを狙ねらったが、呪文を唱となえようにも声が出ない。男の空いているほうの手が、予言を握にぎっているハリーの手を探って伸びてきた――。
「グアァァッ」
ネビルがどこからともなく飛び出し、呪文が正確に唱となえられないので、ハーマイオニーの杖を、死喰い人の覆面ふくめんの目出し穴に思いっ切り突っ込んでいた。男は痛さに吠ほえ、たちまちハリーを放はなした。ハリーは素早すばやく後ろを向き、喘あえぎながら唱えた。
「ステューピファイ 麻ま痺ひせよ」
死喰い人はのけ反ぞって倒れ、覆面が滑すべり落ちた。マクネアだ。バックビークの死し刑けい執しっ行こう人にんになるはずだった男が、いまや片目かためが腫はれ上がり血だらけだ。
「ありがとう」礼を言いながら、ハリーはネビルをそばに引っ張り寄せた。シリウスと相手の死喰い人が突然二人のそばを通り抜けて行ったからだ。激はげしい決闘けっとうで、二人の杖が霞かすんで見えた。そのときハリーの足が、何か丸くて固い物に触ふれ、ハリーは滑すべった。一いっ瞬しゅん、ハリーは予言を落としたかと思ったが、それは床をコロコロ転がっていくムーディの魔法の目だとわかった。
目の持ち主は、頭から血を流して倒れていた。ムーディを倒した死し喰くい人びとが、こんどはハリーとネビルに襲おそいかかってきた。ドロホフだ。青白い長い顔が歓喜かんきに歪ゆがんでいる。
「タラントアレグラ 踊おどれ」ドロホフは杖つえをネビルに向けて叫さけんだ。ネビルの足がたちまち熱ねっ狂きょう的てきなタップダンスを始め、ネビルは体の平衡へいこうを崩くずしてまた床に倒れた。
「さあ、ポッター――」
ドロホフはハーマイオニーに使ったと同じ、鞭打むちうつような杖の振り方をしたが、ハリーは同時に「プロテゴ 護まもれ」と叫んだ。
顔の脇わきを、何か鈍にぶいナイフのようなものが猛もうスピードで通り過ぎたような感じだった。その勢いでハリーは横に吹き飛ばされ、ネビルのピクピク踊おどる足に躓つまずいた。しかし「盾たての呪じゅ文もん」のおかげで、最悪には至いたらなかった。