ドロホフはもう一度杖を上げた。「アクシオ 予言よ――」
シリウスがどこからともなく飛んできて、肩でドロホフに打ちかまし、跳はね飛ばした。予言がまたしても指先まで飛び出したが、ハリーは辛かろうじてつかみ直した。こんどはシリウスとドロホフの決闘けっとうだった。二人の杖が剣つるぎのように光り、杖つえ先さきから火花が散った――。
ドロホフが杖を引き、ハリーやハーマイオニーに使ったと同じ鞭の動きを始めた。ハリーは弾はじかれたように立ち上がり、叫んだ。
「ペトリフィカス トタルス 石になれ」
またしても、ドロホフの両腕両りょう脚あしがパチンとくっつき、ドサッという音とともに仰向あおむけに倒れた。
「いいぞ」シリウスは叫びながらハリーの頭を引っ込めさせた。二人に向かって二本の失しっ神しん光こう線せんが飛んできたのだ。「さあ、君はここから出て――」
もう一度、二人は身をかわした。緑の閃光せんこうが危あやうくシリウスに当たるところだった。部屋の向こう側で、トンクスが石段の途と中ちゅうから落ちて行くのが見えた。ぐったりした体が、一段、一段と転げ落ちて行く。ベラトリックスが勝ち誇ほこったように、乱闘らんとうの中に駆かけ戻って行った。
「ハリー、予言を持って、ネビルをつかんで走れ」シリウスが叫び、ベラトリックスを迎むかえ撃うつのに突進とっしんした。ハリーはそのあとのことは見ていなかった。ハリーの視界しかいを横切って、キングズリーが揺ゆれ動いた。覆面ふくめんを脱ぬぎ捨すてた痘痕あばた面づらのルックウッドと戦っている。ハリーが飛びつくようにネビルに近づいたとき、緑の光線がまた一本、ハリーの頭上をかすめた――。
「立てるかい」抑制よくせいの効きかない足をピクピクさせているネビルの耳元で、ハリーが大声で言った。「腕を僕の首に回して――」
ネビルは言われたとおりにした――ハリーが持ち上げた――ネビルの足は相変わらずあっちこっちと勝手に跳はね上がり、体を支えようとはしなかった。そのとき、どこからともなく男が襲おそいかかってきた。二人とも仰向あおむけにひっくり返り、ネビルの足は裏返うらがえしのカブトムシのようにバタバタ動いた。ハリーは小さなガラス球が壊こわれるのを防ふせごうと、左手を高く差し上げていた。
「予言だ。こっちに渡せ、ポッター」ルシウス・マルフォイがハリーの耳元で唸うなった。マルフォイの杖つえの先が、肋骨ろっこつにぐいと突きつけられているのを感じた。
「いやだ――杖を――放はなせ……ネビル――受け取れ」
ハリーは予言を放ほうり投げた。ネビルは仰向けのまま回転して、球を胸に受け止めた。マルフォイが、こんどは杖をネビルに向けた。しかし、ハリーは自分の杖を肩越しにマルフォイに突きつけて叫さけんだ。
「インペディメンタ 妨害ぼうがいせよ」
マルフォイが後ろに吹っ飛んだ。ハリーがやっと立ち上がって振り返ると、マルフォイが台座だいざに激突げきとつするのが見えた。台座の上で、シリウスとベラトリックスがいま決闘けっとうしている。マルフォイの杖が再びハリーとネビルを狙ねらった。しかし、攻撃こうげきの呪じゅ文もんを唱となえようと息を吸い込む前に、ルーピンがその間に飛び込んできた。