ハリーは「よかった」と言おうとしたが、声が出なかった。ハリーのもたらした被害ひがいがどれほど大きかったかを、ダンブルドアが改あらためて思い出させようとしているような気がした。ダンブルドアが初めてハリーをまっすぐ見ているのに、そして、非難ひなんしているというより労いたわっているような表情だったのに、ハリーはダンブルドアと目を合わせることができなかった。
「マダム・ポンフリーが、みんなの応おう急きゅう手当をしておる」ダンブルドアが言った。「ニンファドーラ・トンクスは少しばかり聖せいマンゴで過ごさねばならぬかも知れんが、完全に回復する見込みじゃ」
ハリーは、空が白しらみはじめ、明るさを増してきた絨じゅう毯たんに向かって頷くしかなかった。ダンブルドアとハリーがいったいどこにいたのか、どうして怪け我が人にんが出たのかと、部屋中の肖像画が、ダンブルドアの一言一言に聞き入っているに違いない。
「ハリー、気持はよくわかる」ダンブルドアがひっそりと言った。
「わかってなんかいない」ハリーの声が突然大きく、強くなった。焼けるような怒りが突き上げてきた。ダンブルドアは僕の気持なんかちっともわかっちゃいない。
「どうだい ダンブルドア」フィニアス・ナイジェラスが陰険いんけんに言った。「生徒を理解しようとするなかれ。生徒がいやがる。連中は誤解ごかいされる悲劇ひげきのほうがお好みでね。自じ己こ憐憫れんびんに溺おぼれ、悶々もんもんと自みずからの――」
「もうよい、フィニアス」ダンブルドアが言った。
ハリーはダンブルドアに背を向け、頑かたくなに窓の外を眺ながめた。遠くにクィディッチ競技場が見えた。シリウスがあそこに現れたことがあったっけ。ハリーのプレイぶりを見ようと、毛むくじゃらの真っ黒な犬になりすまし……きっと、父さんと同じぐらいうまいかどうか見にきたんだろうな……一度も確かめられなかった……。
「ハリー、きみのいまの気持を恥はじることはない」ダンブルドアの声がした。「それどころか……そのように痛みを感じることができるのが、きみの最大の強みじゃ」
ハリーは白熱はくねつした怒りが体の内側をメラメラと舐なめるのを感じた。恐ろしい空虚くうきょさの中に炎が燃え、落ち着きはらって虚むなしい言葉を吐はくダンブルドアを傷きずつけてやりたいという思いが膨ふくれ上がってきた。