いまや太陽はすっかり昇のぼり切っていた。ダンブルドアの部屋は、たっぷりと陽ひを浴あびている。ゴドリック・グリフィンドールの剣つるぎが収おさめられているガラス棚だなが、不ふ透とう明めいな白さに輝かがやいた。ハリーが床に投げ捨すてた道具の破片はへんが、雨の雫しずくのように煌きらめいた。ハリーの背後で、雛鳥ひなどりのフォークスが、灰の巣すの中で、チュッチュッと小さな鳴き声を上げていた。
「予言は砕くだけました」ハリーが虚うつろに答えた。「石段にネビルを引っ張り上げていて。あの――あのアーチのある部屋で。僕がネビルのローブを破ってしまい、予言が落ちて……」
「砕けた予言は、神しん秘ぴ部ぶに保管ほかんしてある予言の記録きろくにすぎない。しかし、予言はある人物に向かってなされたのじゃ。そして、その人物は、予言を完全に思い出す術すべを持っておる」
「誰が聞いたのですか」答えはすでにわかっていると思いながら、ハリーは聞いた。
「わしじゃ」ダンブルドアが答えた。「十六年前の冷たい雨の夜、ホッグズ・ヘッドのバーの上にある旅籠はたごのひと部屋じゃ。わしは『占うらない学がく』を教えたいという志し願がん者しゃの面接に、そこへ出向いた。『占い学』の科目を続けること自体、わしの意に反しておったのじゃが。しかし、その人物が、卓越たくえつした能力のある非常に有名な『予よ見けん者しゃ』の曾ひ々ひ孫まごじゃったから、わしは、会うのが一般的な礼儀れいぎじゃろうと思うたのじゃ。わしは失望した。その女性本人には才能のかけらもないように思われた。わしは、礼を欠かぬように言ったつもりじゃが、あなたはこの職しょくには向いていないと思うと告げた。そして帰りかけた」
ダンブルドアは立ち上がり、ハリーのそばを通り過ぎて、フォークスの止まり木の脇わきにある黒い戸棚とだなへと歩いて行った。屈かがんで留とめ金がねをずらし、中から浅い石の水すい盆ぼんを取り出した。縁ふちにぐるりとルーン文字が刻きざんである。ハリーの父親がスネイプをいじめている姿を見た水すい盆ぼんだ。ダンブルドアは机に戻り、「憂うれいの篩ふるい」をその上に置き、杖つえをこめかみに当てた。ふわふわした銀色の細い糸が幾筋いくすじか、杖つえ先さきにくっついて取り出された。ダンブルドアはそれを水盆に落とした。机の向こうで椅子に寄より掛かかり、ダンブルドアは、自分の想おもいが「憂いの篩」の中で渦巻うずまき漂ただようのを、しばらく見つめていた。それからため息をついて杖を上げ、杖先で銀色の物質を突ついた。
中から一つの姿が立ち上がった。ショールを何枚も巻きつけ、メガネの奥で拡大された巨大な目のその女性は、盆の中に両足を入れたまま、ゆっくりと回転した。しかし、シビル・トレローニーが話しはじめた声は、いつもの謎なぞめいた心しん霊れい界かいの声ではなく、かすれた荒々しいものだった。ハリーはその声を一度聞いたことがあった。