「私はフィレンツェが最さい善ぜんと思うことをしているんだと信じている」
ロナンは落ち着かない様子で、蹄で地面を掻かき、くぐもった声で言った。
「最善 それが我々と何のかかわりがあるんです ケンタウルスは予よ言げんされたことにだけ関心を持てばそれでよい 森の中でさ迷まよう人間を追いかけてロバのように走り回るのが我々のすることでしょうか」
ベインは怒って後足うしろあしを蹴けり上げた。
フィレンツェも怒り、急に後足で立ち上がったので、ハリーは振り落とされないように必死に彼の肩につかまった。
「あのユニコーンを見なかったのですか」フィレンツェはベインに向かって声を荒げた。
「なぜ殺されたのか君にはわからないのですか それとも惑わく星せいがその秘ひ密みつを君には教えていないのですか ベイン、僕はこの森に忍び寄るものに立ち向かう。そう、必要とあらば人間とも手を組む」
フィレンツェがさっと向きを変え、ハリーは必死でその背にしがみついた。二人はロナンとベインを後あとに残し、木こ立だちの中に飛び込んだ。
何が起こっているのかハリーにはまったく見当がつかなかった。
「どうしてベインはあんなに怒っていたの 君はいったい何から僕を救ってくれたの」
フィレンツェはスピードを落とし、並なみ足あしになった。低い枝にぶつからないよう頭を低くしているように注意はしたが、ハリーの質問には答えなかった。二人は黙だまったまま、木立の中を進んだ。長いこと沈ちん黙もくが続いたので、フィレンツェはもう口をききたくないのだろうとハリーは考えた。ところが、ひときわ木の生おい茂しげった場所を通る途中とちゅう、フィレンツェが突とつ然ぜん立ち止まった。