返回首页

第一章 悪魔が来りて笛を吹く(1)

时间: 2023-12-05    进入日语论坛
核心提示:第一章 悪魔が来りて笛を吹く いま筆をとってこの恐ろしい物語の、最初の章を書きおこそうとするにあたって、私はいささか良心
(单词翻译:双击或拖选)

悪魔が来りて笛を吹く(恶魔吹着笛子来)

第一章 悪魔が来りて笛を吹く

 いま筆をとってこの恐ろしい物語の、最初の章を書きおこそうとするにあたって、私は

いささか良心の呵か責しやくなきを得ない。

 ほんとうをいうと、私はこの物語を書きたくないのだ。この恐ろしい事件を文字にして

発表するのは、気がすすまないのだ。なぜならば、これはあまりにも陰惨な事件であり、

あまりにも呪のろいと憎しみにみちみちていて、読むひとの心を明るくするところが、微

み塵じんもないからである。

 この物語の最後の行が、どのような文章をもって結ばれるか、それは筆者である私自身

にも、まだ予測することは出来ないけれど、おそらく諸君は巻をおおうた刹せつ那な、な

んともいいようのないドスぐろさ、救いがたいほどの暗あん澹たんたる思いに、重っくる

しく胸をおしつぶされることだろう。由来、犯罪と推理の物語に後味のよいのは少ないの

が当然かも知れないけれど、この事件はあまりにも後味の悪さにおいて、極端であろうこ

とを私はおそれるのである。その点金田一耕助も私とおなじ考えだったらしい。この材料

を私に提供するにあたって、かれは少なからず躊ちゆう躇ちよ逡しゆん巡じゆんしていた

ようだ。

 ほんとうをいうと、この事件は、私がここ二、三年書きつづけてきた金田一耕助の冒険

譚たんの二、三より、以前に書かれるべき性質のものである。年代からいうと、これは

「黒猫亭事件」と、「夜歩く」の事件のあいだにはいるべきもののように思われる。それ

をいままで私に秘めて、容易に明かそうとしなかったのは、金田一耕助もやはり、この事

件全体をおおうている救いのない暗さ、呪わしい人間関係、さてはまた、憎悪と怨おん念

ねんのすさまじさが、読むひとの心を不快にすることをおそれたからであろう。

 しかし、いま書しよ肆しの追究急なるあまり、私はとうとう意を決して、金田一耕助の

同意をえたうえ、この事件の全ぜん貌ぼうを発表しようとしている。むろん、書きたくな

い、気がすすまぬといいながら、いったん筆をとった以上、全精力をかたむけて、この事

件と取っ組もうとしていることはいうまでもない。

 さて、いまこうして筆をとっている私の机の周囲には、金田一耕助から提供された、い

ろんな参考資料が散乱しているのだが、そのなかでも、もっとも強く私が心をひかれるの

は、一枚の写真と、それから一枚のレコードの片面である。

 写真というのは、ハガキ大の大きさで、そこに写っているのは、中年の紳士の半身像で

ある。この写真が撮影されたとき、写真のぬしは数え年で四十二歳。(ついでにここでお

断わりしておくが、以下この物語に出てくる年齢は、すべて数え年である。なぜならば、

この事件が起こった当時は、まだ満でかぞえる制度はなかったのだから)いわゆる男の厄

年である。そう思ってみるせいか、それとも、これからお話ししようとする、あの恐ろし

い事件の連想がはたらくせいか、このひとの容貌のうえから感得されるものは救いがたい

ほどの暗いかげである。

 色は浅黒いほうだろう。額がひろく、髪をきれいに左でわけている。鼻がたかく、眉ま

ゆがけわしく、瞳めのいろが沈んでいるのは、うちにはげしい感情を蔵しながら、それが

つねに内ない訌こうし、沈潜しているといった感じである。口は小さく、唇はうすいほう

だが、それも残忍酷薄という印象ではなく、むしろどこか女性的な気の弱さを示している

ようだ。それでいて、顎あごがかなり張っているところは、女性的な気の弱さの底に、い

ざとなれば、いつ爆発するかも知れぬ、強い意志を示しているのであろう。

 服装は地味な背広だが、胸にさがった紐ひもネクタイのひとすじが、このひとの芸術家

気質を、遠慮がちにのぞかせているようだ。

轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

热门TAG:
[查看全部]  相关评论