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第三章 椿子爵謎の旅行(3)

时间: 2023-12-05    进入日语论坛
核心提示: 美禰子をくるむ暗いかげはいよいよ濃くなりまさっていく。しかし金田一耕助はもう驚きも怪しみもしなかった。彼女の身にしみつ
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 美禰子をくるむ暗いかげはいよいよ濃くなりまさっていく。しかし金田一耕助はもう驚

きも怪しみもしなかった。彼女の身にしみついた暗いかげの秘密が、かれにもしだいにわ

かってきたから。

「あたしびっくりして父の顔を見直しました。そしてその言葉の意味をたずねました。父

は多くを語りませんでしたが、でも、とぎれとぎれにいったことばを総合すると、こうい

うことになるのです。父を密告した密告状には、天銀堂事件の起こった前後における、父

の言動をこと細かに書きしるしてあるのですが、それには同じ邸内に住むものでなけれ

ば、知るはずのないことまで書いてあったらしいのです」

 金田一耕助は膝もとから、つめたいものが這はいのぼってくるような悪お寒かんをおぼ

える。

「お父さんはそれを誰だかおっしゃいませんでしたか」

 美禰子は暗い瞳めをしてうなずいた。

「お父さんはただ漠然と、そういう疑いを持っていられたのですか。それとも密告者が誰

だか、ハッキリ御存じのようでしたか」

「父はハッキリ知っていたと思います」

「あなたはどうですか、そういう残酷ないたずらをする人物に心当たりがありますか」

 美禰子の唇が異様にねじれた。瞳が残忍な熱っぽさをおびてかがやいた。

「あたし、よくわかりません。でも、疑おうと思えばいくらでも疑えるひとはあります。

母をはじめとして……」

「お母さんをはじめとして……」

 金田一耕助は息をのんで相手の顔を見直した。膝もとからまたむずかゆい戦せん慄りつ

が這いのぼる。美禰子はだまって耕助の顔を見ている。

 金田一耕助は万年筆をとりなおして、

「それでは当時、同じ邸内に住んでいられたひとたちのことを承りましょう。たしか三家

族ごいっしょでしたね」

「はあ」

「では、お宅から伺いましょう。お父さんは椿つばき英ひで輔すけとおっしゃいました

ね。おいくつでしたか」

「四十三でした」

「それから?」

「母 あき子こ、 は火扁にノギ、四十になります。でも……」

「でも……? 何んですか」

 美禰子は憤ったように頰ほおを強こわ張ばらせて、

「もし、先生が母にお会いになったら、あたしが噓うそをついたとお思いになるでしょ

う。母は若くてとても綺き麗れいなんです。若いころ華か胄ちゆう界かいきっての美人と

謳うたわれたそうですが、いまでも三十そこそこにしか見えないのです。ですから、母に

とってはあたしのように醜い娘があるということは、とても心外なんです。あたし、母に

気の毒だと思っています」

 金田一耕助は相手の顔を見直して、何かいおうとした。がすぐ思いなおした。軽薄なお

世辞などうけつけるような娘ではない。

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