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第六章 笛鳴りぬ(1)

时间: 2023-12-06    进入日语论坛
核心提示:第六章 笛鳴りぬ「悪魔が来りて笛を吹く」── 金田一耕助は事件が解決されるまでに、なんどこの曲を聴いたかわからないけれど
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第六章 笛鳴りぬ

「悪魔が来りて笛を吹く」──

 金田一耕助は事件が解決されるまでに、なんどこの曲を聴いたかわからないけれど、は

じめてそれを耳にしたのは、東太郎が観音びらきのドアをひらいた、じつにその瞬間だっ

た。

 どこか遠くのほうから、ふるえるように聞こえてくるフルートのメロディー、しいんと

静まりかえった家のなかに、嫋じよう々じようとして流れるそのメロディーには、なにか

しら一種異様な戦せん慄りつ的なところがあった。

 しかし、それだからといって、このひとたちはなにをこのように恐れ戦おののいている

のだ。……

 金田一耕助はちょっと呆あきれたような顔色で、そこに立ちすくんでいるひとびとの顔

を見まわす。さっき火焰太鼓を見たときには、痴ち呆ほう的な放心状態しか示さなかった

あき子こまでが……いや、その 子がいちばん深刻な恐怖にとりつかれているのである。

 彼女は老女の信乃につかまって、子供のようにふるえていたが、やがてフルートのメロ

ディーが、もの狂わしくその旋律を強めたとき、 子は両手でひしと耳をおさえた。

「ああ、主人がかえってきて笛を吹いている! 誰か……誰か……あれをやめさせ

て……」

 駄々っ児のような 子の叫びに、一同ははっとわれにかえった。美み禰ね子こがいかつい

顔をして、ひとびとを突きのけるようにして部屋から外へとび出した。一彦がすぐそのあ

とを追った。金田一耕助もわけがわからぬなりにそのあとからとび出した。

 停電の時間がおわったので、廊下にはあかあかと電気がついている。その廊下を美禰子

がいちばんに走っていった。

 美禰子のあとから一彦、一彦のあとから金田一耕助が走った。耕助のあとには東太郎と

菊江がつづいていた。

 廊下へ出るとフルートの音はいよいよはっきりきこえてきた。それはどうやら応接室の

ほうからきこえてくるようである。

 美禰子がいちばんに、その応接室のドアのところまで駆けつけた。応接室のドアはさっ

き耕助たちが出ていったときのまま、開けひろげてあり、なかには煌こう々こうと電気が

ついていたが、人影はどこにもなかった。しかも、あの物狂わしいフルートの音はつづい

ているのである。

「あっ、美禰子さん、二階だよ」

 一彦がさけんで走り出した。そのあとから美禰子と金田一耕助、それから東太郎と菊江

がつづいて走った。そのあとから、まだ誰か来る様子だった。

 二階へあがる階段は、応接室を出て廊下をいちど曲がったところにある。その下まで駆

けつけてきて、一同はしいんと立ちすくんだ。仰げば二階はまっくらだった。が、フルー

トの音はたしかにそこからきこえてくるのである。

「誰……? そこにいるのは……?」

 美禰子の声はふるえている。しかし、二階からは返事はなく、ただすすり泣くようなフ

ルートの音がきこえるばかり。

「誰かそこにいて?」

 美禰子はもういちど声をかけて、壁のうえのスウィッチをひねった。階段のうえがパッ

と明るくなったが、あいかわらず返事はなく、フルートの音は少しも調子をみださずにつ

づいている。

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