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第六章 笛鳴りぬ(2)

时间: 2023-12-06    进入日语论坛
核心提示:「いってみましょう。美禰子さん」 一彦が五、六歩階段を駆けのぼった。美禰子はちょっとためらったのち、すぐそのあとにつづい
(单词翻译:双击或拖选)

「いってみましょう。美禰子さん」

 一彦が五、六歩階段を駆けのぼった。美禰子はちょっとためらったのち、すぐそのあと

につづいた。金田一耕助と東太郎もそのあとからついていったが、菊江はおくればせに駆

けつけてきた利彦や華はな子ことともにそこにのこった。

 階段をのぼると、廊下の左側にふたつ三つ部屋があるらしかったが、フルートの音がき

こえるのは、いちばんとっつきの部屋である。

 一同はそれに気がつくと、階段のうえで立ちすくんでしまった。

「先生……」

 美禰子が喘あえぐようにいって、ひしとばかりに耕助の腕をつかんだ。

「父の書斎よ。父の書斎からよ」

 その書斎のドアは少しひらいていて、そこから蛍火ほどのほのかな光がもれている。耕

助は立ちすくんでいる一同をそこに残して、ドアのそばへより、それを少し大きく開く

と、部屋のなかをのぞいてみた。

 書斎のなかは電気が消えてまっくらだったが、ただある一点にほのかな明かりがともっ

ている。金田一耕助はすぐその光源がなんであるかを認めた。

「先生、誰かいて……?」

 耕助はゆっくり首を左右にふると、

「美禰子さん、この部屋には電気蓄音器があるのでしょう」

「電気蓄音器……ああ、それじゃ、それはレコードなの」

 美禰子が弾かれたようにそばへよってきて、ドアの内側にあるスウィッチをひねると、

パッと書斎が明るくなった。

 そこはいかにも失しつ踪そうした椿子し爵しやくの人柄を思わせるような、きちんと片

付いた部屋だったが、その一隅に大きな電気蓄音器がおいてある。そして、あの無気味な

フルートのメロディーは、その電蓄のボックスからきこえてくるのであった。

「誰が……誰がこんな悪戯いたずらをしたの」

 レコードとわかって、美禰子はほっとしたのか、つかつかと電蓄のそばへよると蓋ふた

をひらいた。だが、そのとたん、ストップがかかってレコードはしぜんととまった。

 こうして悪魔は「悪魔が来りて笛を吹く」の第一回目を、完全に吹奏しおわったのであ

る。

 一同は茫ぼう然ぜんとして、しばらく顔を見合わせていたが、やがて美禰子が気がつい

たように、

「あたしお母さまにいってくるわ。なにも御心配なさるようなことはありませんて」

 いかつい、憤ったような顔をして、いこうとするのを、金田一耕助が腕をとってひきと

めた。

「いや、美禰子さん、あなたはもうしばらくここにいてください。いろいろお訊たずねし

たいことがある」

 それからドアのところに立っている、一彦と東太郎のほうをふりかえると、

「君たち、このことを階し下たへいって、皆さんに報しらせてきてくれませんか。誰かが

悪戯をしたので、べつに御心配なさるようなことはありませんて」

 一彦はちょっとためらったのち、無言のままうなずいてドアのそばをはなれた。東太郎

もそのあとからついていった。

 金田一耕助は電蓄のそばへよって、注意ぶかくレコードをはずすと、電気にかざしてそ

のラベルを読むと、

「ああ、これはお父さんの作品なんですね」

 と、ちょっと驚いたような声で訊ねた。かれはいままでその曲を、いちども聴いたこと

がなかったので、メロディーを聴いただけでは気がつかなかったのである。

 美禰子が無言のままうなずいた。

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