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第九章 黄金のフルート(1)

时间: 2023-12-06    进入日语论坛
核心提示:第九章 黄金のフルート「驚いたわ。あたし。だって先生がそんな偉い探偵さんだなんて、ちっとも知らなかったもんだから、昨夜は
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第九章 黄金のフルート

「驚いたわ。あたし。だって先生がそんな偉い探偵さんだなんて、ちっとも知らなかった

もんだから、昨夜はすっかり失礼しちゃって。……ごめんなさい。先生」

 これが応接室へ第一番目に呼び出されて、警部や金田一耕助のまえに腰をおろした菊江

の第一声だった。

 さすがにけさは玉虫もと伯はく爵しやくの喪のつもりか、黒っぽいお召を着て、化粧な

どもできるだけひかえ目にしているが、顔色にも態度にも、悲しみの影など微み塵じんも

なく、あくまでも人を食ってしゃあしゃあしている。

 金田一耕助はわざとむずかしい顔をして、

「これこれ、菊江さん、いまはそんな冗談などいってる場合ではありませんよ。警部さん

の質問に対して神妙にお答えしなさい」

 悪戯いたずら小僧をさとすような耕助の言葉に、菊江はひょいと首をちぢめて、舌を出

した。

 それでも警部の質問に対して、姓名だの年齢だのを素直にこたえたが、最後に被害者と

の関係を訊きかれると、まあというように眼を見張り、失礼ねと口のうちで呟つぶやいた

が、

「あの、妾めかけなんですの」

 と、すまして答えた。それには警部のほうが照れて、

「ああ、なるほど、なるほど、それでそういう御関係はいつごろから……」

 菊江はまた、まあというように眼を見張ったが、それでも顔をあからめもせず、

「はあ、あの、あたし十六のときからですから、足掛け九年になりますわね。あたし新し

ん橋ばしから半はん玉ぎよくで出ておりましたのよ。その時分、あのかたに一人前の女に

して戴きましたの」

 応接室にいる刑事たちのあいだから、くすくすと笑い声が起こった。しかし彼女はその

ほうを振り向きもしなかった。笑い声はすぐやんだ。

 警部もこれは手ごわいと思ったのか、それ以上その問題を追求しようとはせず、さっそ

く昨夜の事件のほうへ質問の矢をむけた。それに対する菊江の応答はこうである。

「はあ、あの、金田一先生がおかえりになったあと、あたしずいぶんしつこく、爺じいさ

ん、いえ、あの御前様におすすめしたんでございますのよ。向こうへいって寝ましょうっ

て。それだのに爺い、いえ、あの、御前様ったら何におむずかりあそばしたのか、一向お

肯きき入れがございませんの。お肯き入れがないばかりか、しまいにはうるさいから向こ

うへいって勝手に寝ろとおっしゃいますの。そこであたしこれ幸いと、……いえ、あの、

御命令ですから致し方がございませんでしょう。それであたし離れへかえってひとりで寝

たんです」

「何時頃のことでしたか、それは……」

 金田一耕助が口をはさんだ。

「十一時をよほど過ぎてましたわね。べつに注意もしませんでしたけれど……」

「そのとき、三島君やお種さんは……」

「さきに寝てもらいましたの。だって年寄りのむずかってるところ見られるのいやですも

の」

「すると、あなたが出ていかれると、御老人ひとりあとに残ったわけですね」

「ええ、そうよ。いえ、さようでございます」

 菊江はまたちょっと舌を出した。

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