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第二十七章 密室の再現(7)

时间: 2023-12-11    进入日语论坛
核心提示: 耕助にうながされて、「ああ、ふむ。」 と、警部は砂鉢のうえに仰向けに、おさえつけられたまま、「おまえは誰だ。いったい何
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 耕助にうながされて、

「ああ、ふむ。……」

 と、警部は砂鉢のうえに仰向けに、おさえつけられたまま、

「おまえは誰だ。いったい何をするのだ」

「それに対して犯人は、ある言葉を御前の耳にささやいたんです」

 そういいながら、耕助は警部の耳に口をあてると、

「わ、わたしは──」

 と、何やらひとことささやいたが、そのときの警部の顔色こそみものであった。警部

は、やにわに耕助の体をつきとばすと、はじかれたように立ちあがり、

「な、な、なんだって。き、き、金田一さん、そ、そ、そりゃほんとうか」

 警部のそれはもうお芝居ではなかったのだ。まるで地獄の口でものぞいたように、ドス

ぐろい恐怖と驚きに顔を歪ゆがめ、目玉がいまにも飛び出しそうであった。

 それに対して耕助は、落ち着きはらって、袂たもとの砂を払いながら、

「ほんとう──だろうと思います。そして、警部さん、あの晩の玉虫の御前も、いまの警部

さんと同じような驚きと恐れをもって、同じような言葉を、犯人にむかってあびせたにち

がいないのです」

 一同はしばらくしいんと黙りこんでいた。

 耕助は何を警部にささやいたのか。そしてまた、警部は何をあのように驚いたのか。

 妙に不安でぎこちない空気が、一同の顔を強こわ張ばらせる。それは、耕助のささやい

た言葉が、想像もつかなかったせいもあろうが、なかにはまた、それがわかった人物も、

あったからかも知れないのである。

 やっと菊江が口をひらいた。あいかわらず、からかうような調子だが、妙に声がしゃが

れている。

「金田一先生、いったい、どんなおまじないを、警部さんにおっしゃいましたの」

「やあ」

 耕助は警部に眼くばせをしながら、

「それはもう少し伏せておくことにしましょう。それよりも、いまの警部さんの顔色か

ら、どんな恐ろしい言葉だったかおわかりになるでしょう。ことに玉虫の御前は当事者だ

けにね」

「金田一先生」

 と、怯おびえたような声をかけたのは美禰子である。美禰子の眼はいよいよ大きく見開

かれて、蒼あお白じろんだ頰ほおがさむざむとそそけ立っている。

「それが、あれですの? 椿家の名誉を泥沼に落とすという──」

「ええ、そ、そ、そうかも知れません」

 食い入るような美禰子の視線から顔をそむけて、耕助はぎこちなく咽の喉どの痰たんを

切りながら、

「これで、あの晩起こった惨劇の、第一幕は終わったわけです。玉虫の御前はかなりの手

傷を負うておられた。ことに鼻血が飛んだので、部屋中惨さん憺たんたる光景を呈しまし

た。しかし、それかといって御前はそのとき死んでいられたわけではなく、まだまだ元気

でいられたんです」

「しかし、それじゃなぜひとを呼ばなかったんだね」

 蟇がま仙人の蟇のような声である。

「それがつまり、おまじないのせいなのね」

 菊江がかしこくも指摘する。

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