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第二十八章 火焰太鼓の出現(3)

时间: 2023-12-11    进入日语论坛
核心提示:「そうさね。五、六杯は飲んだろうよ。君の強いのには驚いた」「そうですか。それでは──」 東太郎は無造作にウィスキーをつぐ
(单词翻译:双击或拖选)

「そうさね。五、六杯は飲んだろうよ。君の強いのには驚いた」

「そうですか。それでは──」

 東太郎は無造作にウィスキーをつぐと、たてつづけに五、六杯あおった。たちまち頰ほ

おに血の色がまし、額にじっとり汗がうかんでくる。

「そう、ちょうどこれくらいの酔いかたでしたよ。昨日、あのことが起こったときには

──」

 一同は驚きと、たぶんに怖おそれのまじった眼で、東太郎の顔を視みつめている。目賀

博士でさえ、グラスを握った手がふるえ、東太郎の顔を穴のあくほど視つめている。

「ああ、いや」

 と、金田一耕助はあいかわらず、咽喉に何かひっかかったような声で、

「さあ、これで準備が出来ました。それではみなさん、あのときの位置についてくださ

い。あ、目賀先生、あなたはあのとき、上半身裸体ではなかったんですか」

 目賀博士はぎろりと耕助の顔をにらむと、それでも上衣とシャツを脱ぎ捨てて、鏡のは

まった衝つい立たてのまえまでいってこちらをむいて立った。

 一彦はちょっとためらったのち、それでも上衣だけぬいだ。三島東太郎は窓のそばへい

き、こちらをむいて立つと、無造作に上半身裸になった。

 金田一耕助はちょっと眼を閉じ、すすり泣くような溜ため息を吐いた。

「金田一さん、それで──?」

 警部や女たちの物問いたげな視線に、射すくめられて、耕助はしばらく、部屋の中央に

立っていたが、やがて力なく、昨日 子が坐すわっていたというソファへいって、投げ出す

ように腰をおろした。

 金田一耕助はそこでまた、ちょっと眼を閉じ、呼い吸きを吸ったが、すぐにその眼を開

くと、目賀博士の背後にある衝立の鏡をのぞきこみながら、二、三度体の位置をなおし

た。

 耕助の唇から、また、長い、すすり泣くような溜め息がもれる。

「警部さん、ここへきて、あの鏡のなかをごらんなさい。三島君のうしろの窓ガラスにう

つっているものが、そのまま、鏡にうつっている。 子奥さまはそれをごらんになって

──」

「いや、もう、それには及びませんよ。金田一先生」

 呼びかけられた、かんじんの金田一耕助をのぞいて、ほかのひとびとはいっせいに、声

の主のほうを振り返った。

 いうまでもなくそれは三島東太郎だった。不思議にもそのときの東太郎の顔色は、いう

ばかりもなく晴々として朗かだった。まるでこれから、ピクニックにでも出掛けそうなほ

ど、陽気で明るかった。

「ひとりひとりそこへいって、鏡をのぞくのはたいへんだ。それよりぼくがみなさんに、

直接お眼にかけたほうがよさそうです」

 東太郎はつかつかと部屋の中央まで出てくると、くるりとそこで背をむけたが、そのと

たん、一同は恐ろしい呪じゆ縛ばくにかかってしまった。

 警部は笛のような声を立ててうなり、およそものに動ぜぬ目賀博士でさえ、いまにも飛

び出しそうなほど眼をみはり、みるみるうちに額に汗が吹き出してきた。

 じっとりと汗ばんだ東太郎の左の肩に、くっきりとうかびあがっているのはまぎれもな

く火焰太鼓、新宮利彦の肩にあったのと、そっくり同じかたちの痣あざだった。

 一同はまるでものに憑つかれたような眼つきをして、そのまがまがしい痣を視みつめて

いる。華子と一彦は紙のように白くなり、菊江はぽかんと眼をみはり、お信し乃のの顔は

邪悪にみちて歪ゆがんでいた。ただ、美み禰ね子こだけがなんだか腑ふに落ちかねる顔色

である。

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