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第二十八章 火焰太鼓の出現(4)

时间: 2023-12-11    进入日语论坛
核心提示: しばらくして東太郎はふりかえった。さすがに顔は蒼あおざめて強こわ張ばっている。その強張った顔に強しいて微笑をつくろいな
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 しばらくして東太郎はふりかえった。さすがに顔は蒼あおざめて強こわ張ばっている。

その強張った顔に強しいて微笑をつくろいながら、

「みなさん、おわかりですか。椿子し爵しやくが手帳のなかに、悪魔の紋章と書きしるし

ておいたのは、ぼくのこの痣のことだったんです。ぼくはこの痣を証拠に、椿子爵に名の

り出たんですから」

「それじゃ、あなたは──」

 華子が何かいいかけたが、その言葉は終わりまで発音されずに、口のなかでふるえて消

えた。

 東太郎はあいかわらず強張った微笑をうかべたまま、

「ええ、そうですよ、奥さん、ぼくはあなたの旦だん那なさんのおとし子なんです。一彦

君、ぼくは君の異母兄なんだぜ」

 一彦は屈辱のために赧あかくなり、きゅっと体をかたくした。

「そして、君はじぶんの父を殺したんだね」

 警部の口調はきびしかったが、東太郎はこともなげに、

「そうですよ、警部さん、あっ、ちょっと待ってください。ひとを呼ぶのは待ってくださ

い。それじゃ、金田一先生の志が無になる。ぼくはもう覚悟をきめているんだ。悪あがき

はしやあしないから安心してください」

 金田一耕助も警部がひとを呼ぶのをとめた。そして、みずからドアのそばへいくと、そ

こに立ちはだかった。それは東太郎の逃亡をさまたげるよりも、外からひとが入ってくる

のを警戒するためであった。

「そんなことなら、そんなことなら、もっとはやくいってくださればよかったのに──あた

しだって、出来るだけのことはしてあげたのに──」

 華子がうめいてすすり泣いた。このとき、はじめて東太郎はふてぶてしい微笑をうかべ

て、

「有難う、奥さん。しかし、あんたは何も御存じないのです。あいつは……あなたの旦那

さんだった男は、人間じゃなかったんです。あいつは畜生だった。けだものだった。あい

つはもう、このうえもない恥知らずの動物だったんだ。人面獣心とはあいつのことだ」

 東太郎のおもてには、そのとき、たとえようもないほどのはげしい憎悪がもえあがっ

た。しかし、すぐがっくりと肩を落とすと、

「あっはっは」

 と、咽の喉どのおくでかすかに笑って、

「金田一先生、ウィスキー、飲んでもいいでしょう」

 といいながら、じぶんで勝手についで飲んだ。

 美禰子はいったんの驚きからさめると、さっきから、冷めたい眼をして東太郎の挙動を

視つめていたが、そのとき急に、きびしい声で詰なじるようにいった。

「三島さん、あなたが伯お父じさまのことを、なんとおっしゃろうとも構いません。あた

しもあなたの意見に賛成です。しかし、それだからって、あなたはなぜ、あたしのお母さ

まを殺したんです。あの罪もない、可哀そうなお母さまを……」

 そのとき急に金田一耕助が走ってきて、うしろから美禰子の肩に手をおいて

「三島君!」

 と、何か注意をするように鋭い声をかけた。

 東太郎と耕助はきびしい眼をして、しばらく睨にらみあっていた。等々力警部は顔をそ

むける。

「先生、許してください」

 しばらくして、東太郎が弱々しい声でつぶやいた。

「しかしこの娘こは、なにもかも知りたがっている。それに……それに、ぼくもいっぺん

この娘を妹と呼びたいんだ」

「妹……?」

 美禰子はつぶらの眼を見張る。

「そうだよ、美禰子、おれはな、新宮利彦がじぶんの妹、即ちおまえのお母さんを犯して

産ませた子供なんだ」

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