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第二十九章 悪魔の記録(1)

时间: 2023-12-11    进入日语论坛
核心提示:第二十九章 悪魔の記録 私。──三島東太郎という偽名のもとに、昨年より椿つばき家けに同居している本名河村治雄は、万一の場
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第二十九章 悪魔の記録

 私。──三島東太郎という偽名のもとに、昨年より椿つばき家けに同居している本名河村

治雄は、万一の場合、他に迷惑をおよぼすことをおそれて、ここに告白状をしたためてお

くことにする。

 万事は終わった。

 私は大おお伯お父じを殺し、父を殺し、母を殺害する準備を完了した。母はまだ死んで

はいないけれど、私の計画にして、失敗するようなことはよもやあるまい。だから母がす

でに死せるものとして、私がここに、この告白状をしたためておくということは、必ずし

も早すぎはしないだろう。

 私は大伯父と父を、もえるような憎悪と復ふく讐しゆう心をもって殺害した。かれらを

殺したあとには、なんの悔恨ものこらなかった。むしろ成すべきことを成しとげたのち

に、誰でも感ずるような、サバサバとした、痛快味さえおぼえたのである。

 それにもかかわらず、母を殺害する準備を完了したいま、心のなかを吹きすさぶ、この

やりきれない荒涼たる嵐あらしは、いったい、どうしたというのであろう。私は大伯父を

怨うらみ、父を憎むと同様に、母をも憎んでこの家へやって来たのだが……。

 ひょっとすると、私は母を殺害するあの計画が、失敗に帰することを祈って、この告白

状を書こうとしているのではないだろうか。即ちこの告白状が誰かに発見されることに

よって、母の殺害計画が、未然に防止されることを祈っているのではあるまいか。

 いやいや、そうあってはならぬ。

 母はやはり死ななければならないのだ。あのような母を生かしておくことは、母にとっ

ても、美み禰ね子こにとっても幸福ではない。

 おお、美禰子、けなげな美禰子よ。

 そうだ。私はこの告白を美禰子にあてて書くことにしよう。このような恐ろしい事実を

知るということは、美禰子のような少女にとっては、救いがたい打撃となろう。しかし、

美禰子よ、おまえはそれに耐えていかねばならないし、また、おまえならばきっと耐えて

いけるだろう。

 さて、私のこの恐ろしい、血みどろな犯罪行為の告白をするまえに、私はまず自分の生

い立ちから述べていかねばなるまい。

 私は神戸市須す磨ま寺でらの植木職、植辰こと、河村辰五郎の長男としてそだてられ

た。戸籍を見ても、辰五郎とその妻はるのあいだに出来た子として入籍されている。

 しかし、私は物心ついたころから、いつ、誰に聞いたともなく、じぶんが河村辰五郎の

実子でないことを知っていた。どこからか貰もらわれてきた里子であるということを、い

つ、どうして知ったのか憶おぼえていないけれど、知っていた。

 私がもの心ついたころには、戸籍上の私の母はるはすでに死亡していて、辰五郎は植木

職もやめ、わかい妾めかけとともに、神戸の板宿というところに住んでいた。

 この妾というのは、その後、辰五郎が何度もとりかえた妾のうちの初期の女で、名前は

たしかお勝といったと思うが、ひょっとすると、そのことを私に教えてくれたのは、この

お勝という女だったかも知れぬ。

 しかし、そのお勝も、数多い辰五郎の後の妾も、私のほんとうの出生について知るもの

はなかったらしく、昭和二十一年夏、軍隊から復員してくるまで、私はじぶんの素性につ

いて、全然知るところはなかった。

 むろん、辰五郎は知っていた。私はいくどか辰五郎にむかって、自分の両親について教

えてくれるようにと懇願した。そんな場合、辰五郎はいつも、にやにやとへんな笑いかた

をして、(ああ、いまこそ、あのいやなにやにや笑いの意味がわかるのだ)

「おまえは、そんなことを知らないほうがいいのだ」

 と、いった。またあるときは、

「それがわかると、おまえはとても生きていられまい。おれの子として籍に入っているこ

とを有難く思え」

 と、いうような意味のことばをいったりした。

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