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第二十九章 悪魔の記録(5)

时间: 2023-12-11    进入日语论坛
核心提示: それがわかると私はすぐに椿子し爵しやくに会いにきた。あのとき私が何な故ぜ椿子爵をえらんだのかよくわからない。その時分に
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 それがわかると私はすぐに椿子し爵しやくに会いにきた。あのとき私が何な故ぜ椿子爵

をえらんだのかよくわからない。その時分には椿子爵の性格を知っていたわけではないか

ら、事がこんなにうまく運ぼうなどとは知ろうはずはなかったのだ。ただ私としては正面

からのあまりの早急な攻撃は避け、側面からじわりじわりと攻めつけてやろうという考え

だったので、それには私の出生に関する限り無関係で、しかも、私の母といまもっとも密

接な関係にある椿子爵こそ、格好の人物として選ばれたのだろう。

 私はこの家の応接室で椿子爵に面会したのだが、そのときまず一驚したのは、子爵が飯

尾豊三郎にたいへんよく似ていることだった。

 むろんふたりを並べてみたら、見わけをつけることは困難ではなかったろう。しかし、

べつべつに見ると、顔かたちから眼鼻立ち、さらにどこか疲れて、放心したような印象

が、非常によく似ているのである。しかし、そのときには私はまだ、このことを利用して

やろうなどとは夢にも思わなかった。

 名前を秘していたので、子爵もはじめは、たいへん怪け訝げんそうであった。しかし、

ひとたび、私の口から素性が語られ、背中にある痣あざ(私はそのときあらかじめ酒を飲

んでいったのだ)を見せられたときの子爵の驚き! 恐らく意識しているといないとにか

かわらず、自殺ということが子爵の脳のう裡りにひらめいたのは、その瞬間だったろう。

それほど、そのとき子爵のおもてをかすめた、絶望的な嫌悪の色は深刻だったのだ。

 さて、私はまず最初の一撃で、相手を打ちのめしておいて、それからおもむろに自分の

身のうえを語って聞かせた。自分の身のうえのみならず、小夜子の身のうえも語って聞か

せた。そして小夜子と私がどういう関係を結ぶにいたったか、その結果小夜子がどうなっ

たかというだんになると、子爵は文字どおり真まっ蒼さおになり、いまにも気を失うので

はないかと思われるほどだった。

 ただ、そのとき私が不思議に思ったのは、私の語るこの世にも忌いまわしい話に対し

て、子爵が一度も反はん駁ばくを加えて来なかったことだ。子爵はいくどか耳をおおいた

そうな素振りをしたが、一度も「噓うそだ!」とも「そんな馬鹿な!」ともいわなかっ

た。おそらくあの妻と、あの兄なら、それくらいのことはあったかも知れぬと納得したの

だろう。

 さて、私の話が終わったあとで、子爵は絶望的な光を眼にうかべてこういった。

「それで君はどうしてほしいというのだ」

 それに対して私はこの家においてほしいといった。子爵の眼にうかんだ絶望的な光は恐

怖に変じた。この家にいてどうしようというのだと反問した。

「べつに、どうしようという考えはありません。しかし、私にはいまいるところがないの

ですから、げんざいじぶんの両親が、住んでいるところにおいてほしいというのは、当然

の要求だろうと思います」

 子爵の眼にうかんだ恐怖の色は、もはやのっぴきならぬものになっていた。

「そして……そして、私がそれを拒絶したら……」

 ああ、気の毒な子爵よ。子爵の額にはそのときいっぱい汗がうかんでいた。恐怖のため

に体がねじきれるようであった。それに対して、私は冷然とせせら嗤わらった。

「さあ、そのときのことは私もまだよく考えておりませんが、ひとつ新聞社へでもいきま

すかな。新聞によっては、こういう話をよろこんで、買ってくれるところがあるそうです

から……」

 この一言が完全に、子爵の息の根をとめたのである。

 結局、私は書生として、椿つばき邸ていに同居することになった、その代わり、子爵の

眼のくろいあいだは、絶対にこの秘密を他にもらさないこと。また、絶対に三人に手出し

をしないことを誓わされた。そして、私はその約束を厳重に守ってきたではないか。

 私に三島東太郎という名前をあたえたのは、むろん子爵であった。私の言葉に上方訛な

まりがあるところから、岡山で死んだ旧友の息子の名前を名乗らせたのだ。

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