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第二十九章 悪魔の記録(7)

时间: 2023-12-11    进入日语论坛
核心提示: 部落の連中はかれの財源がどこにあるのか、いぶかっていたようだが、以前二、三度かれと交渉を持ったことのある私には、かれの
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 部落の連中はかれの財源がどこにあるのか、いぶかっていたようだが、以前二、三度か

れと交渉を持ったことのある私には、かれの資産がなんであるかよく知っていた。それは

すぐれた風ふう采さいと、物に動ぜぬ態度とにあったのだ。何しろはじめから善悪の区別

のない男だから、およそ物に動じるということがない。かれは平気で噓うそがつけたし、

ひとをペテンにかけることなど、屁へとも思わぬ男であった。

 そういう飯尾豊三郎でも、私が訪ねていったときには、いくらか狼ろう狽ばい気味だっ

たようだ。私があのいまわしい嫌疑からのがれたことに対して祝辞をのべると、かれはた

だ薄ら笑いをうかべただけだが、それでも私を視みる眼には、明らかに不安の色が宿って

いた。私はそれだけで満足して、その日は別れた。

 後日、かれが告白したところによると、私だけははじめからかれの苦手だったそうだ。

かれの話すところによると、私の体からは黒い陽炎かげろうのような妖よう気きが立ちの

ぼっていて、それがかれをおそれさすと同時に、惹ひきつけもしたらしい。飯尾は私が訪

ねていったとき、ああもう駄目だと観念したという。

 それはさておき、飯尾に泥を吐かせるのは、それほどむずかしいことではなかった。

と、いうのは、私は飯尾の妙な性癖を知っていたからだ。かれはなんでも大切なものを手

に入れると、いちじどこかへ埋めてかくすくせがある。ちょうどビスケットにありついた

仔犬が、いちじゴミ溜ための付近だの、枯れ草のなかだのにかくしておくように。しかも

飯尾のかくし場所というのが、増上寺境内にあるらしいということまで、私はまえから

知っていた。

 天銀堂から掠りやく奪だつしてきた貴金属類を、飯尾はどのように処分したか。いかに

道徳的不感症とはいえ、あのような大騒ぎをひき起こした以上、そうやすやすと贓ぞう品

ひんのしまつが出来るはずがない。飯尾はあの貴金属類を、まだ増上寺境内のどこかに埋

めているのではないか。……

 そこで私は増上寺を、ひそかに見張っていることにきめたのだが、その見張りはそれほ

ど長く続ける必要はなかった。私が訪ねていってから三日目の夕方、飯尾はのこのこ増上

寺へやってきた。私の来訪によって動揺した飯尾は、一度埋めた場所に不安をおぼえて、

ほかへうつすつもりだったらしいのだが、そこを私に押えられたのだ。

 贓品を手にしているところをつかまっては、いかに飯尾のような狡こう猾かつな男で

も、誤魔化すわけにはいかなかった。案外すらすらと犯行を自認した。私はかれから贓品

をまきあげるかわりに、月々いくらかの仕送りをしてやることにして、かれを掌中におさ

めたのだ。

 その時分、私は飯尾をどうしようという、はっきりした目的を持っていたわけではな

い。しかし、とにかく椿子爵に酷こく似じした人物の死命を制しておくということは、今

後なにかにつけて、好都合だろうくらいに考えていたのだ。こうして私は一方においては

椿子爵を、他方においては飯尾豊三郎をと、相似ふたりの人物を、完全に掌中におさめる

ことが出来たのだ。

 椿子爵が失しつ踪そうしたのは、たしかその前後であった。私はすぐにそれを自殺行で

あろうと思ったが、そのとき、私がもっとも恐れたのは、自殺の直前、私のことをなんら

かの形で、書きのこしておきはしなかったかということだった。さいわい、この家には遺

書はなかったけれど、身につけているのではないかというおそれがあった。だから、子爵

の死体が発見されると、私はみずから進んで、新宮利彦や、美み禰ね子こや一彦と同行し

たのだ。

 しかし、さいわい子爵の身辺にも、遺書らしいものは発見されなかった。ただひとつ、

ポケット日記に書かれた、あの火か焰えん太だい鼓このかたちと、悪魔の紋章という文字

が、子爵に出来た精一杯の意志表示だったのだろう。内気で、潔癖で、ひかえめな椿子爵

には、あのようないまわしい事実を、口にするのはもとより、筆に書くさえ憚はばかられ

たのにちがいない。

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