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第二十九章 悪魔の記録(9)

时间: 2023-12-11    进入日语论坛
核心提示: ところが、どっこい、あのいまいましい金田一耕助のやぶれ帽子が花瓶の口にひっかかって、どうしても雷神を取り出すことが出来
(单词翻译:双击或拖选)

 ところが、どっこい、あのいまいましい金田一耕助のやぶれ帽子が花瓶の口にひっか

かって、どうしても雷神を取り出すことが出来ぬ。強しいて取り出そうとすると、帽子を

破るおそれがある。おまけにそのうちにひとがやって来たので、私は一時、取りかえを断

念しなければならなかった。

 あのころ、私はまだ金田一耕助なる人物を、全然知らなかったのだけれど、それでもあ

の男が帽子を取ろうと、花瓶と格闘しているのを見たときは、腋わきの下から汗が流れた

ものだ。花瓶がゆれるたびに、雷神がごとごとと音を立てたのだから、後になってそれを

思い出せば、金田一耕助が怪しまぬはずはない。

 それはさておき、どうしてもその夜のうちに、風神と雷神を取りかえておきたかった私

は、ひとの寝しずまるのを待って、アトリエのまえへしのんでいった。アトリエはドアが

しまっており、電気も消えてまっくらだった。私はてっきり玉虫公丸も部屋へひきとった

ことと思い、花瓶から雷神を取り出してドアをひらいた。ドアの内側にはカーテンがし

まっていたが、それをくぐってなかへ入ったとたん、

「誰だ!」

 と、鋭い声とともに電気がついた。

 そのときの私の驚き! 玉虫公丸はまだアトリエのなかにいたのだ。私は一瞬金縛りに

あったように身動きが出来なくなったが、玉虫公丸のほうでも同じだった。

 私たちはしばらく無言のまま睨にらみあっていたが、そのうちに私の持っている雷神に

眼をつけると、玉虫公丸は振り返って風神を見た。聡そう明めいな男だから、その一いち

瞥べつで、火焰太鼓のからくりを見破ったのにちがいない。風神像をとりあげて、底を調

べようとしたせつな、私は雷神を振りあげて玉虫公丸にうってかかった。そのときの私の

精神状態は戦場で絶望的な突撃を命じられたときの感じによく似ている。なんともいいよ

うのない、憤怒と憎悪の念に駆り立てられたのだ。

 美禰子よ。

 おまえもあの部屋の惨状はよく知っているだろう。しかし、そのときの玉虫公丸の負傷

はそれほど大きなものではなかったのだ。ただ最初の一撃が面部をうったために、実際の

傷よりも非常に多量の鼻血が流されたのだ。

 さて、あの砂鉢のうえに玉虫公丸をおさえつけて、なおも打ってかかろうとしたとき、

公丸が下から喘あえぐように私のことを訊たずねた。私はかれの耳に口をよせ、自分が誰

であるかを囁ささやいた。そこで勝負は完全についたのだ。

 椿子爵がそうであったように、玉虫伯爵も私の素性を知ったせつな、塩をかけられた青

菜のように萎しぼんでしまった。だから、私はもうそれ以上、伯爵をいためつける必要は

なくなったわけだ。人一倍家名を気にする伯爵が人を呼んだり、警察へつき出して、藪や

ぶから蛇をつつき出すような真ま似ねをするはずがない。

 そこで私たちのあいだに一種の妥協が成立した。私が自分の出生の秘密を守る代償とし

て、伯爵は私の将来を保証しようというのだ。

 もし、あのとき、伯爵の眼にあやしい殺気さえ走らなかったならば、私は当分それで満

足していたかもしれないし、この家を出ればあるいは私の体内にみなぎっている、危険な

殺意もうすらいでいったかも知れぬ。

 ところが、こうして交渉が成立したのち、部屋から出ようとして、何気なくふりかえっ

たとたん、私ははからずも玉虫公丸の眼にうかんだ、なんともいえぬ凶暴な光を一瞬見た

のだ。

 私ははっと思った。いまや、私より伯爵のほうに、より強い殺意がきざしていることに

気がついたのだ。私は玉虫公丸がどんな男かよく知っている。やろうと思えばどんなこと

でもやってのける男だ。私を殺すくらいのことは屁へでもあるまい。しかも、誰も私の出

生の秘密を知るものはないのだから、私が他殺死体となって発見されても、誰が玉虫公丸

を疑おう。……

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