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第二十九章 悪魔の記録(10)

时间: 2023-12-11    进入日语论坛
核心提示: とっさに、私はまた決心をかえた。いや、それまで漠然としか感じていなかった殺意が、そのときはじめて、はっきりとした形とな
(单词翻译:双击或拖选)

 とっさに、私はまた決心をかえた。いや、それまで漠然としか感じていなかった殺意

が、そのときはじめて、はっきりとした形となって現われたのだといってもよい。

 外へ出ると、なかから伯爵がドアをしめ、閂かんぬきをおろし、掛け金をかける音が聞

こえた、さらにカーテンがしめられた。おそらく伯爵には妾めかけの菊江やその他のもの

に、どういって怪け我がをいいつくろったものか、思案をする必要があったのだろう。

 私もちょっと思案したのち、花瓶をおいてあった台をドアのまえに持ってきて、それに

あがって欄らん間まからなかをのぞいた。……

(筆者曰いわく。これからあとの一部分は、金田一耕助の実験と同じことになるから略

す)

 だから、あの晩、玉虫公丸を殺すということは、全然、私のプログラムにはなかったの

だ。もし、はじめから殺人の計画を持っていたら、おそらく私は飯尾豊三郎に、邸内を徘

はい徊かいすることを命じはしなかったろう。

 火焰太鼓のマークとレコードの音で、 子夫人を中心として、この家に恐慌をまき起こし

たのち、さらに椿子爵らしい人物を瞥べつ見けんさせて、恐怖の竜に点てん睛せいしよう

というのが、そのときの私の幼稚な考えだったのだ。

 あそこで殺人が行なわれれば、飯尾は私を疑うだろう。それだけでも私にとって不利だ

のに、もし飯尾がつかまれば、私の計画は暴露してしまう。この一事をもってしても、あ

の晩の殺人が、突発的に行なわれたものであることを、信じて貰もらうことが出来るだろ

う。

 そのことは新宮利彦の場合も同様だった。

 もっとも玉虫伯爵を殺害して以来、私ははっきりあの男に対する殺意をあたため、計画

を練っていた、石はすでに坂をころがりはじめたのだ。いきつくところまでいかなけれ

ば、とどまらないだろうことを、私は知っていた。しかし、それがあの晩であろうとは、

私も予期していなかったのだ。

 あの晩、私は一般に信じられているより、大分早くかえってきた。そういうとき、私は

いつも崩れた塀のすきまから出入りをするのだ。そのほうが、張りこんでいる刑事やおま

わりに、変な眼で見られずにすむからだ。

 さて、塀の破れから入って勝手口へいくには、 子夫人の部屋を遠くに見るような位置を

通ることになる。私はふと新宮利彦があたりを見まわしたのち、そっとその部屋の障子を

しめるところを目撃した。と、間もなく部屋のなかの電気が消えたのだ。

 それからあとのことを書くのはよそう。それ故にこそ、私はあの男をけだものと呼んで

憚はばからないのだ。私の胸は憎悪で張り裂けそうであった。

 私はあの男が母の指から指輪をまきあげて出て来るのを待ち伏せて、温室のなかへ引っ

張りこんだ。さすがに破は廉れん恥ちなあの男も、いま自分がやって来たことを見られた

と知ると、真まっ蒼さおになってふるえていた。私は自分が誰であるかを名乗ってきかせ

たのち、茫ぼう然ぜんとして、馬鹿みたいに立っている男を、そこにかくしてあった風神

像でなぐり倒した。あいつは一撃のもとに倒れると、子供のように声をあげて泣いた。私

はそのうえに馬乗りになり、悠々として首をしめたのだ。

 玉虫伯爵の場合もそうであったが、新宮利彦の場合はことに、殺害のあとでなんの悔恨

も残らなかった。私はむしろ、この世から害虫を駆除したようなすがすがしさをおぼえ

た。いや、もっともっと残酷な殺しかたをしなかったのが悔まれるくらいだ。

 それからあとのことは、いまさらここに書くにも及ぶまいが、ただちょっと心残りなの

は、新宮利彦に対する復ふく讐しゆうのチャンスが、こんなに早く来ると知ったら、おこ

まを殺す必要はなかったようだ。おこまの口から自分の素性が暴露して、そのために、新

宮利彦を殺す機会を失うことをおそれた私は、飯尾豊三郎に、おこまの殺害を命じたのだ

が。……

 飯尾の始末は私がつけた。いずれ芝の増上寺境内から、死体が発見されるだろうが、警

察でもそれを飯尾と気がつくかどうか。母を殺害する準備も完了している。石はとうとう

転がるところまで転がったのだ。

 ただひとり残るのは自分のことだが、私はこれからさきどうなるのか。つかまって絞首

台へ送られるのか。それともそのまえに、自分で自分の生命を断つ羽目になるのだろう

か。だが、どっちでもよい。私はもうあまり長く生きていたくはないのだ。

 しかし、美み禰ね子こよ。

 おまえは生きていかなければならぬ。このような残酷な事実を知ったのち、強く生きて

いくということは難しいことだ。しかし、おまえはそれに耐えていけるだろう。一彦はお

まえほど強くなさそうだが、華はな子こ夫人がきっと支えとなって下さるだろう。しか

……これは悪魔のいうことではなさそうだね。

 美禰子よ、さようなら。

 一彦よ、さようなら。

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