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第三十章 悪魔笛を吹きて終わる(1)

时间: 2023-12-11    进入日语论坛
核心提示:第三十章 悪魔笛を吹きて終わる 三島東太郎即ち河村治雄の遺書は、何もかも終わったのち、数日にして発見されたものである。そ
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第三十章 悪魔笛を吹きて終わる

 三島東太郎即ち河村治雄の遺書は、何もかも終わったのち、数日にして発見されたもの

である。それを読んだのは美禰子と一彦と華子未亡人と、金田一耕助と等と々ど力ろき警

部の五人であった。

 あの、さまざまな思い出のある応接室で、美禰子がそれを朗読し、あとの四人が耳をか

たむけた。

 美禰子も一彦も華子夫人も、この陰惨な記録によく終わりまで耐えしのんだが、さすが

に文章が新宮利彦の殺害される直前の非行に及んだときには、一同は慄りつ然ぜんとして

顔を見合わせた。華子夫人のごときは、あまりの浅ましさに、声を立てて泣き出したくら

いである。

 等々力警部は溜ため息をついた。

「金田一さん、あんたはそれを知っていたんだね」

 金田一耕助も溜め息をついた。

「知っていたというわけじゃありませんが、ひょっとすると……と、いう疑いを抱いたわ

けです。あの夜、就床後に起こった目賀博士と あき子こ夫人のいさかいから──」

 金田一耕助は、そこではげしく咳せきをすると、

「いや、失礼しました。とにかく終わりまで読みつづけましょう。美禰子さん、あなた読

みつづける勇気がありますか」

「はい、読みつづけましょう」

 美禰子は強い意志の片へん鱗りんを見せた。

 こうして、美禰子がこの長い遺書を読み終わったあと、一同はずいぶん長いあいだ黙り

こくっていた。華子夫人はときどき思い出したように身ぶるいをし、すすり泣いた。一彦

はソファに腰をおろしたまま、両手で頭をかかえこんでいる。

 美禰子がそっとそばへよって、一彦の肩に手をおいた。

「一彦さま。そんなに考えこむことはないのよ。あなたのお父さまはいけないひとだった

けれど、あなたのお母様は立派なかたよ。そして男の子は父よりも母の血をより多く、う

けつぐのだということを、あなたも御存じでしょう。その反対に女の子は、母の血よりも

父の血をより多くうけつぐのね。有難いことに、あたしは女の子だから、お母様よりもお

父様の血を、より多くうけついでいるのだわ。そして、お父様は弱いひとであったけれ

ど、正しい、親切なひとだったってことは、一彦さん、あなたも認めて下さるでしょう」

 一彦は頭をかかえたまま強くうなずいた。首をふるたびにはらはらと、涙が床のうえに

とび散った。

「有難う。もう泣くのはよしましょう。伯お母ばさまもしっかりして。これからは、伯母

さまだけが頼りなのですから」

「すみません、美禰子さま」

「この家は出来るだけはやく処分しましょう。そして、あたしたち、どんなにせまい家で

もよいから、明るい、よく陽の当たる場所に住んで、身にしみこんだこの暗いかげを洗い

おとしましょうねえ」

 それから美禰子は金田一耕助のほうを振り返った。

「金田一先生、これで何もかも終わったわけですけど、そのまえに、唯ただひとつ先生に

お聞きしたいことがございます」

「どういうことですか」

「先生はどうしてあのことを御存じになりましたの。母と──伯父のことを──」

 金田一耕助ははっとして、話をほかのほうへ外らそうとしたが、強い決意を秘めた美禰

子の視線へ、打ち克かつことは出来なかった。この娘は何もかも知らずにはおかないの

だ。

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