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第三章 華麗なる殺人 二(3)

时间: 2023-12-22    进入日语论坛
核心提示: そのうちに、現場写真の撮影や指紋の検出もおわって、いよいよ死体が馬車から取りおろされ、待機していた森本医師の検証という
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 そのうちに、現場写真の撮影や指紋の検出もおわって、いよいよ死体が馬車から取りお

ろされ、待機していた森本医師の検証という段取りになったが、つめたいコンクリートの

床のうえに横たえられた死体を見たとき、並居る係官一同は、思わず奇異の声を放たずに

はいられなかった。

 さっきもいったように辰人の死体は左の腕を、ベルトでしっかり胴にしばりつけてい

て、したがって、背広のうえからみると左腕が肩の付け根から、うしなわれているように

みえるのである。

「主任さん、主任さん」

 と、この地方の警察に、ながく勤めるという井川老刑事は眼をかがやかせて、

「それじゃ、名琅荘にあらわれる片腕の幽霊というのは、古館辰人そのひとだったんです

かい」

「まさか……金田一先生、あなたのご意見はいかがです?」

「そうですねえ。古館氏自身が自分の別荘にケチをつけるようなまねをしていたとは思え

ませんねえ」

「しかし、それじゃこの男、なんだって片腕男のまねなんかしてるのかな。それとも、森

本先生、殺されてから、犯人がこんなややこしいことをやったんですかい?」

「そんなこと、おれに聞いたってわかりゃせんよ。おい、田原君、この腕、ほどいてもい

いかね」

「あっ、ちょっと。そのまえに一応写真を撮っとこう」

 腕をしばった局部の写真が撮影されたのち、はじめて左腕の緊縛が解かれて、森本医師

の検証がはじまった。

「森本先生」

 と、そばから金田一耕助が敬けい虔けんな口調で、

「こんなことは申し上げるまでもないことですが、被害者の生命をうばったのは、後頭部

の疵きずであったのか、それとも咽喉部を絞めつけられたせいだったのか、それをひとつ

入念に……」

「いや、金田一先生」

 ながらく警察医をしている森本医師も、金田一耕助の名前はしっていたのである。

「先生のような経験豊富なかたなら、もうだいたいおわかりになっておりましょうが、こ

れはあきらかに撲殺ではなく絞殺ですよ。顔面のウッ血状態がそれを示しています。もち

ろん、もっと正確なことは解剖のうえご報告しますがね」

「はっ、ありがとうございます。それでは後頭部をぶん殴られて、昏倒してるところを

ロープかなんかで、絞殺されたとみてよろしいでしょうねえ」

「医学的見地からみるとそういうことになりましょう」

「だけど、先生、犯人はなんだって、そんなややこしいことをやりおったんですい。ぶん

殴って相手が気絶しちまったんなら、これさいわいと、そのまんま殴り殺しゃいいじゃあ

りませんか。あとで絞め殺したり、殺した死体を馬車に乗っけたり、なんだってまた、そ

んなややこしいことをやりおったんですい」

「おい、おい、井川のおっさん、そんなこたあ犯人をつかまえてから聞いてみるんだあ

ね。このおれにぼやいたところでしったことか。おれは検死調書を書けばそれでお役目は

すむんだからな。死因は索条ようの物の圧迫より生じた呼吸器閉へい塞そくによる窒息

死。撲殺にあらずとな、そう書いとくから、せいぜい被害者をぶん殴った凶器でもさがし

ておくこった」

「へん、余計なお世話だ、ヤブ医者め。その凶器ならちゃんとここに押収してございまさ

あね」

「えっ!」

 てきぱきと検証をすすめていた森本医師は、井川老刑事の毒舌におもわずひょいと顔を

あげた。見ると老刑事は握りぶとのステッキの、地面につくほうの端を二本の指でつまん

で、これみよがしにぶらんぶらんと一同の鼻先に突きつけた。

「おや、おやじさん」

 と、田原警部補も眼を見張って、

「おまえさん、そんなもんどこで見つけたんだ」

「なあに、このロープの下敷きになってたんでさあ」

 と、井川老刑事が足でけってみせたのは、天井の鉄骨からぶらさがっている滑車から、

ななめに直線をひいて壁のボルトにとめてある綱の一端が、まだまだあまって、壁ぎわの

床のうえに大きくとぐろを巻いている、その綱の束だった。

「いま、やっこさんの首を絞めたのは、このロープじゃねえかと調べていると、この束の

下から妙なものがツラあ出したと思ったら、このステッキの握りだったてえわけでさあ。

ちょっとヤブ小路タケノコ庵先生、このステッキを見てくださいよ」

「なんだ」

 と、この老刑事の毒舌にはなれているとみえて、森本医師も苦笑している。

「ほら、ごらん、この握り。これ、ちゃんと鉛がつめてあるんですぜ。しかも、ほら見

な。血と髪の毛が一本、二本、三本までこびりついてまさあ。だから犯人はこいつを逆手

にもってぐゎんとひとつ、古館の御前にお見舞いしたんだあね。そこで古館の御前様は一

撃のもとに眼がおくらみあそばした。さて、問題はそのあとでさあ。犯人はこんな結構な

凶器をもっていたんですぜ。こいつで撲なぐり殺して血がとぶのがいやとあらば、こうい

う手だってありまさあ」

 と、井川老刑事は逆手にぶらさげていたステッキを持ち直すと、握りのところをいじっ

ていたが、やがてずらりと抜きはなったところをみると、なんとこれが仕込み杖である。

「ほうら、ごろうじろ、お立ち会い、抜けば玉散る氷の刃やいば、こいつでぐさりと止と

どめを刺しゃ、話はいたって簡単でさあね。それをまたなにを苦しんでごたいそうもな

い、ロープで絞めあげたりしやあがったんです。タケノコ庵ヤブノ守かみ先生、この謎を

なんとお解きになりやすね」

「わかった、わかった、おやじさん、その仕込み杖はちゃんとしまって、鑑識の連中にわ

たしてくれ。金田一先生」

「はあ」

「こりゃ、このおやじのいうとおり、どうも変てこな事件ですね」

「はあ……」

 と、ぼんやり答えてから、金田一耕助は井川老刑事の持っている仕込み杖から眼をそら

して、おもわずゾクリと襟えり元もとをちぢめた。金田一耕助はまえにいちど、いま井川

老刑事の持っているのとおなじような仕込み杖を、篠崎慎吾が愛蔵しているのを見たこと

がある。

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