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第八章 抜け穴の冒険 二(3)

时间: 2023-12-26    进入日语论坛
核心提示:「主任さん、いまの声ですがね」「はあ?」「こういう洞どう窟くつのなかですから、もうひとつ距離感がつかめないんですが、さっ
(单词翻译:双击或拖选)

「主任さん、いまの声ですがね」

「はあ……?」

「こういう洞どう窟くつのなかですから、もうひとつ距離感がつかめないんですが、さっ

き聞こえた声の彼我の距離と、いまの声の彼我の距離と、そうかわらないと思うんですが

どうでしょう」

「と、おっしゃると……?」

「あちらさんもわれわれとおなじ速度で、このトンネルのなかを、むこうへむかって歩い

ているんじゃないでしょうかねえ」

「金田一先生、それ、どういう意味ですか」

「わかりません。とにかく、このまま進んでいくよりほかはなさそうです。いずれは尻っ

尾を出すでしょう」

「よし、こんどはおれが先頭に立とう」

 井川老刑事が小山刑事といれかわって、先頭切って歩きはじめた。

 金田一耕助はさっきから、左右の壁にわき道へのかくし扉どはなきやと、丹念に模索し

ているのだが、いままでのところそれらしいものは発見できなかった。もしそういうもの

があるとすれば、それはよほどうまくカモフラージされているのだろう。あるいは腐朽と

崩壊が、それらの偽装をいっそう援護しているのかもしれない。壁にはいちめんに苔こけ

だの隠花植物が密生している。

 抜け穴へもぐりこんでから約十五分。とつぜん先頭をいく井川刑事が、

「だ、だれだ! そこにいるのは!」

 叫ぶとともに懐中電灯の光で前方を照射したが、そのとたん、いちばんしんがりにいる

金田一耕助でさえ、ひとびとの肩越しにはっきりとその男を見たのである。

 そいつは黒っぽいハンチングをまぶかにかぶり、大きな黒眼鏡をかけていた。感冒よけ

の大きなマスクが、そいつの顔半分をかくしていた。マスクの色も黒かった。黒いトック

リ・セーターのうえに、黒い背広を着ているが、その背広の左の腕はひらひらとして虚む

なしかった。

 そいつは先頭に立つ井川老刑事から三間ほど前方にいるのである。トンネルの床にうず

くまって、片腕でなにかやっていたらしいのだが、井川老刑事に声をかけられてひょいと

顔をあげた瞬間、まともに懐中電灯の照射を浴びたわけである。

 したがってそいつがいまいるところは、こちらの四人の立っている場所より、いくらか

高くなっているらしいのだが、井川老刑事には、そこまで考慮するひまはなかった。

「畜生ッ!」

 脱だつ兎とのごとき勢いというのは、そのときの井川老刑事の行動をいうのだろう。そ

の瞬間この老刑事は、崩壊しやすいトンネルの環境を忘れていたらしい。

 遮しや二に無む二にそのほうへ突進していった老刑事は、片腕の怪人の一間ほど前方ま

で迫ったが、そのとたん世にも奇妙な悲鳴をあげて、姿は一同の眼前から消えていた。大

きな震動がそこに起こり、左右の壁から煉瓦が音をたててくずれ落ち、その震動がさらに

またつぎの崩壊を招いた。三つの懐中電灯の光芒のなかを、こまかい塵ちりがまいくる

う。

 片腕の男はゆっくりと立ちあがると、くるりと踵きびすをかえして、足早にむこうのほ

うへ立ち去っていく。背をまるくしているので、身長はわからなかったが、洋服の左の腕

がひらひらしているのが印象的だった。

「待て!」

 田原警部補の声は、咽の喉どにひっかかってしゃがれている。

 井川老刑事になにごとが起こったかわからないので、うっかりそちらへ近よれないの

だ。三人の照射する懐中電灯の光芒のなかに、一瞬うしろ姿をみせたその男は、またたく

まに照射距離のそとへ出て、あとは漆しつ黒こくの闇のなかをいく足音だけがしだいに遠

ざかって、やがて消えた。

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