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第十一章 密室の鍵 二(4)

时间: 2023-12-28    进入日语论坛
核心提示:「田原さん」「承知しました。おい、だれかいないか」 警部補が呼ぶと言下に顔を出したのは江藤刑事である。警部補がかんたんに
(单词翻译:双击或拖选)

「田原さん」

「承知しました。おい、だれかいないか」

 警部補が呼ぶと言下に顔を出したのは江藤刑事である。警部補がかんたんに事情を説明

して、屋敷中くまなく捜索するように命じたとき、一同の顔は土色になっていた。井川刑

事も出ていこうとするのを金田一耕助が呼び止めて、

「井川さん、あなたはもう少しここにいてください。あなたまだお糸さんにきくことがあ

るんじゃないんですか」

「きくことって?」

「ほら、天坊さんが犯人にねらわれるような、貴重品を持っていらっしゃったのではない

かという……」

「そうそう、それじゃばあさんにきくが……」

 と、天坊さんの持ち物にかきまわされたらしい痕があるということを話すと、お糸さん

は眼をまるくして、

「そして貴重なものとおっしゃると……?」

「小っぽけなもんらしいんだ。小っぽけで貴重というと、まあ、宝石のたぐいかな」

「とんでもございません。戦前ならともかく、戦後のあのかたはタケノコ生活のタマネギ

生活、これは天坊さんに限ったことではございませんが、あのかたほんとうにお困りのご

様子で、それがもとで奥さんともお別れになったちゅう話でございますけんなあ」

 このことはお糸さんのあとで呼び出された、慎吾や倭文子もおなじ意見であった。と、

すると犯人はなにをねらっていたのだろうか。いや、それよりもそいつはねらっていたも

のを、首尾よく手に入れたのであろうか。

 慎吾と倭文子はべつべつに呼び出されたのだが、慎吾はきのう夕食のとき天坊さんと

会ったのが最後だといった。そのときは柳町善衛や奥村秘書、陽子もいっしょだったが、

ああいう事件があったあとなので、だれもろくに口もきかなかった。夕食のあと自分は書

斎へ退り、それからまもなく訊き取りがはじまったのだが、その間かん会ったのは陽子だ

けで、陽子は抜け穴の中で発見したライターのことを告げにきたのであるといった。天坊

さんの死が他殺だとしても、だれが犯人だか見当もつかないし、天坊さんを殺さねばなら

ぬという、動機も原因もぜんぜん思い当たるところがないと言明した。また天坊さんがひ

とからねらわれるような貴重品を、持っていようとは思えないと強くいいきった。

 倭文子は倭文子で、自分は夕食も自分の部屋でとったので、天坊さんに会ったのは二時

ごろ自分がベランダへ、フランス刺し繡しゆうを持ち出しているときだけで、そのことに

ついてはゆうべもいったとおりである。そのごはいちども天坊さんに会っていないし、も

しあのひとが殺されたのだとしても、犯人にはぜんぜん心当たりがないと言明した。また

あのひとはちかごろその日の生活にも困るほどだとひとからきいているから、あのひとを

殺害してまで手に入れなければならないような貴重な品を、所持していようとはぜったい

に思えないと、これまた慎吾やお糸さんとおなじ意見であった。

 慎吾も倭文子もタマ子の姿が朝からみえないときいて愕がく然ぜんとしていた。場合が

場合だけにふたりとも、不吉な予感に衝撃をうけたにちがいない。ことに倭文子は女だけ

に受けたショックは大きく、

「タマ子が……? だってあのひとは単なる奉公人じゃありませんか。それは本宅にいた

ことはいました。しかし、それはほんのみじかい期間でしたし、下働きだったでしょう。

あたしなんか顔もろくにしらないくらいでした。そういうひとがなぜまた……」

 倭文子はできるだけ控えめに表現するのだが、それでもなおかつ特権意識が露骨に出て

いて、井川刑事の反感をかうには十分だった。

「ところがねえ、奥さん、下働きの女中でもあの子はやっぱり人間なんですぜ。犬や猫

じゃなかったてえことです」

「それ、どういう意味ですの」

「あの子はこんどの事件についてなにかしってたらしいんですな。犬や猫ならしってても

ニャンにもいえねえわけだが、あの子は人間だから口がきける。だから犯人にねらわれる

価値は十分ありまさあ。だからわれわれ気をもんでるてえわけです」

「じゃ、あのひとなにかいったんですか」

「いや、それがねえ、奥さん」

 井川刑事があまりズケズケいうので、さすがに田原警部補が気の毒になったとみえ、

「あの子はたしかに今度の事件について、なにかしっていたらしいんですね。それをお糸

さんと篠崎さんにいおうとした。ところがなにしろ相手は下働きの女中だし」

 と、田原警部補もちょっぴり皮肉をこめて、

「それにあのとおり年と齢しも若い。あの子がなにをしっているものかと、ふたりとも忙

しいのにかまけて、ろくに話も聞いてやらなかったんですね」

「それじゃ主人はゆうべあの子に会ってるんですの」

「あなたを寝かしつけて廊下へ出てきたら、あの子が待っていて、なにか重大な話がある

と持ちかけてきたというんですね。しかし、ご主人は気分的にとても疲れていたので、話

があるならお糸さんにいいなさいといって、タマ子をそこへ置きざりにして、そのままご

自分の部屋へかえったと、こういってらっしゃる。それがゆうべの十一時二十分。ところ

がいま名琅荘にいるひとたちをひとりずつここへ呼んで聞いてみたところ、その十一時二

十分というのが、だれかがタマ子を見た最後らしいんですね。それについて奥さんなにか

お心当たりは?」

「それでしたらあたしがしってるはずはございませんわね。あの子はゆうべお寝間をしつ

らえに来てくれました。そのときあたしふた言三言口をききました。まあ、労をねぎらっ

たんですわね。それからあたし精神安定剤をのみ、主人に見守られながら眠りに落ちたん

です。薬をのんだのは十時五十分でした。薬はよく効きました。あたしけさまでなにもし

らずにぐっすり眠っていましたから」

「そうすると、奥さん、タマ子に会った最後のひとは、あなたのご主人ということになる

んですが、それについて奥さんはどういうふうにお考えになりますか」

 倭文子は黙って警部補の顔をみていたが、その顔にはみるみる恐怖の色がひろがってき

た。

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