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虎牙-虎之影

时间: 2021-11-07    进入日语论坛
核心提示:虎の影 それから数日は、何事もなくすぎさりました。あの夜は、いくらさがしても、石のコマイヌのほかには、あやしいものも見あ
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虎の影


 それから数日は、何事もなくすぎさりました。あの夜は、いくらさがしても、石のコマイヌのほかには、あやしいものも見あたらず、警官たちは、なんのえものもなく、ひきあげたのです。その後、東京中の警察が、魔法博士と勇一少年をさがしているのに、ふたりの姿はどこにも、あらわれず、むなしく日がたっていくばかりでした。
 そして、あのおそろしい日から、ちょうど六日目の午後、四人づれの少年が、勇一君のおうちをたずねました。
 小林少年と、読者にはまだおなじみのない三人の中学生です。そのうち、一ばん背の高いのは花田(はなだ)君といって、中学の二年生、あとのふたりはおなじ中学の一年生で、石川(いしかわ)君と田村(たむら)君です。
 この花田、石川、田村の三少年は、小学生のころから、少年探偵団にはいって、いまでは小林団長の参謀(さんぼう)というような、重い役目をつとめています。三人の中学校は、明智探偵事務所とおなじ千代田区にありました。
 魔法博士の事件が大きく新聞にのり、小林団長のしんせきの勇一少年が、行くえ不明になったと知ると、三少年は、さそいあって、小林君をたずね、勇一少年捜索のために、少年探偵団も、できるだけのことをしたいと、申しでたのです。
 そこで、きょうは、四人づれで、勇一君のおうちへ、その後のようすをたずねるために、わざわざ出かけてきたのでした。
 さいわい、勇一君のおとうさんは、うちにおられ、よろこんで、四人の少年を、座敷にお通しになりました。
 あいさつと、ひきあわせがすみますと、小林君は、さっそく事件のことを、話しはじめました。
「おじさん、その後、何かかわったことはありませんか。」
 すると、勇一君のおとうさんは、待ちかねていたように、おっしゃるのでした。
「イヤ、みょうな手紙が来たんだよ。どうも勇一は無事でいるらしい。」
「ヘエ、みょうな手紙ですって。だれから来たんです。」
「勇一からだよ。ここにあるから、きみたちも見てください。」
 おとうさんは、そう言って、ふところから、四角な封筒をとり出して、小林君におわたしになりました。
 いそいで、封筒の中をしらべますと、白いびんせんにペンで書いた手紙と、一枚の写真が出てきました。台紙のないキャビネの写真です。
「おや、これ勇一君の写真ですね。みょうな服を着て、すましているじゃありませんか。」
「そうだよ。いま、どこかで、そんなふうをして、くらしているらしい。手紙のほうを読んでごらん。」
 そこで、手紙をひらいて、読んでみますと、そこには、つぎのような、ふしぎなことが書いてありました。

おとうさん、おかあさん、ぼくは無事でいますから、ご安心ください。でも、しばらく、おうちへ帰ることはできません。また、いまいる場所は書くこともできないのです。
ぼくの写真を入れておきます。これは、きのうとったものです。ぼくはいま、こんなりっぱな服を着て、美しい部屋にいます。そして、毎日、びっくりするような、おいしいごちそうを、たべています。
いつおうちへ帰れるか、わからないのが、ざんねんですが、そのほかのことでは、ぼくはたいへんしあわせです。どうかご安心ください。

勇一より。


「たしかに勇一君の字ですね。へんだなあ、いったい、どこにいるんでしょうね。」
「封筒の消し印は新橋(しんばし)になっているが、そんなものはあてにならない。つまり、どっかへ、とじこめられているんだね。まあ、おいしいごちそうをたべているというから、心配はしないが、それにしても、だれが、なんのために、勇一をとじこめているのか、すこしもわけがわからない。」
「魔法博士のしわざでしょうね。」
「わたしも、そう思う。しかし、魔法博士がいったい、なんのために勇一をとじこめるのかね。わたしがお金持ちなら、身のしろ金をゆするためとも考えられるが、わたしは、ごらんのとおりの貧乏人だからね。ゆすられるようなものは、何も持っていない。そこが、じつにふしぎなんだよ。」
「警察へとどけないんですか。」
「ウン、これからこの手紙を見せに行こうと思っていたところだ。しかし、警察でも、これだけでは、何もわからないだろうね。」
「明智先生がご病気でなければ、きっとうまい知恵があるんだがなあ。先生は熱が高くて、勇一君の事件も、まだお話しすることができないでいるんですよ。しかしねえ、おじさん、ぼくたちの少年探偵団は、何かをさがすことが、なかなかうまいんですよ。まえにも、いくどもてがらをたてたことがあるんです。ぼくたち、やってみますよ。ねえ、花田君。」
「ええ、ぼくたちも、小林団長を助けて、はたらきますよ。石川君だって、田村君だって、からだは小さいけれど、みんなすばしっこいんだからなあ。」
 花田少年も、いきごんで言うのでした。
 それから、お菓子とコーヒーをごちそうになって、四人の少年は、いとまをつげましたが、表のこうし戸をあけて、外に出ると、すぐ目の前を、ひとりのきたない服を着た男が、まるで逃げるように、スタスタと向こうへ歩いて行くのに、気づきました。
「あいつ、こうし戸のところで、うちのようすを、うかがっていたんだよ。きっと、そうだよ。あやしいやつだなあ。」
 花田君が、声をひくくして言いました。
「つけてみようか。」
 田村君が目を光らせて言います。
「うん、きみと石川君とで、尾行(びこう)してごらん。ぼくたちも、あとからついて行くから。」
 小林団長の命令です。
 田村、石川の二少年は、道の両がわにわかれて、家ののきづたいに、まるでリスのように、チョコチョコと走りながら、男のあとを、尾行しました。
 男はいそぎ足で、右におれ、左にまがり、だんだん、にぎやかな町のほうへとすすんで行きます。
 そうして十五分もたったころ、あとから歩いていた小林君と、花田君の前に、石川、田村の二少年が、スゴスゴとひきかえして来ました。
「だめ、だめ、うまくまかれてしまった。あいつ、気がついたんだよ。ヒョイとうしろを向いて、ぼくたちを見ると、いきなり走りだして、人ごみの中へかくれてしまった。いくらさがしても、見つからないんだよ。」
 尾行は失敗におわりました。しかし、逃げるところをみると、その男はあやしいやつにきまっています。勇一君の事件と関係のあるやつかもしれません。
「顔を見おぼえたかい。」
 小林君がたずねますと、ふたりはこまったような顔をして、
「それが、だめなんだよ。やぶれソフトの前を目の下までさげて、服のえりを立てて、まるで顔をかくしているんだ。服装をかえたら、とても、わかりっこないよ。」
「よし、それじゃあ、きょうは、みんなうちへ帰ろう。そして、こん晩は、勇一君をさがしだす方法を考えるんだ。そして、なにかいい知恵を出して、あす学校がひけたら、ぼくのところへ、来てくれたまえ。そのとき、よくそうだんしよう。」
 小林団長はそう言って、先に立って、国鉄の駅のほうへ歩きだすのでした。
 さて、その晩のことです。花田少年のおうちに、大ちんじがおこりました。まったく、えたいのしれない、ふるえあがるような出来事でした。
 花田君のおうちは港区の焼けのこった屋敷町の中にありました。いけがきにかこまれた、広い庭のあるおうちです。
 花田君は、晩ごはんのあとで、学校の勉強をすませると、勇一君の事件を、いろいろ考えこみましたが、これという知恵も浮かばぬうちに、夜がふけて、十時になってしまいました。花田君は、いつものとおり、自分の勉強部屋に、ふとんをしいて、とこにはいり、それから三十分ほどは、やはり考えごとをつづけていましたが、いつか、昼間のつかれが出て、グッスリねむってしまいました。
 その真夜中です。花田君は、みょうな物音に、ふと目をさましました。窓です。窓のガラス戸を、何者かが、外からコツコツたたいているのです。
 花田君の勉強部屋は四畳半で、一方は廊下、一方は裏庭に向かった窓になっていて、二枚の障子(しょうじ)がはまり、障子の外にガラス戸がしまっています。そのガラス戸を、だれかが、しきりにたたいているらしいので、
「だれ? そこにいるのは、だれ?」と呼んでみましたが、答えはなくて、やっぱり、コツコツ、コツコツとたたいています。なんだか、きみが悪くなってきましたが、花田君は、勇気のある少年でしたから、ふとんを出て、窓のそばにより、もう一度、「だれ?」と、声をかけ、それでも返事がないので、いきなり、障子をサッとひらきました。そして、ひらいたかと思うと、「アッ。」と、声をのんだまま、身うごきもできなくなってしまいました。ガラス戸の外に、化けものがいたからです。
 ガラス戸の三十センチばかり向こうに、大きな顔がありました。背の高さは人間ほどですが、その顔は人間の三倍もあり、ランランとかがやく目、さか立つ黄色い毛、耳までさけた口、まっかな舌、するどい二本の牙。
 おりから、満月に近い月が、中天にかかり、庭一面が銀色に光っていましたが、その月の光が、化けものの半面をてらしているので、こまかいところまで、まざまざと見えるのです。
 はじめのうちは、何がなんだか、見わけられませんでしたが、心がおちつくにつれて、それが一ぴきの巨大な虎であることが、わかってきました。
 その大虎(おおとら)はあと足で立ち、前足をガラス戸のさんにかけて、いまにもガラスをぶちやぶろうとするけはいを見せています。
 牙のあいだから、まっかな舌を出して、ハッハッと息をする音が聞こえ、そのたびに、首から肩にかけて、黄と黒との毛なみが、波のように脈うつのです。
 花田君は、からだがしびれてしまって、身うごきはおろか、声をたてることもできません。ただ、ランランと光る虎の目を、まるで釘づけになったように、ジーッと見つめているばかりです。

 


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