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虎牙-恐怖的牙齿

时间: 2021-11-07    进入日语论坛
核心提示:恐怖の歯がた このなんとも説明のできない、ふしぎな事件があってから二日目のことです。千代田区の明智探偵事務所の奥まった一
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恐怖の歯がた


 このなんとも説明のできない、ふしぎな事件があってから二日目のことです。千代田区の明智探偵事務所の奥まった一室で、ベッドに横になったままの明智探偵と、助手の小林少年とが、何か熱心に話しあっていました。
 明智探偵は、ながいあいだ病気で寝ていましたが、きょうはすこし気分がいいと言うので、ひさしぶりで、小林君をベッドのそばへ呼んだのです。小林君はいままで、先生の病気にさわってはいけないと思って、事件のことは何も言わないのですが、きょうは、先生のほうからたずねられたのと、それに、どうしてもほうっておけないようなおそろしいことが、新しく、おこっていましたので、魔法博士の一件を、すっかり先生にお話しました。
「先生、あいつは、ぼくたちみんなを、ねらっているんです。花田君だけじゃないんです。石川君と田村君と、それから、ぼくをねらっているんです。」
「うん、たぶん、そうだろうね。何かそんなまえぶれでもあったのかい。」
 明智探偵の青ざめた顔には、うす黒くひげがのびています。頭の毛はいつもよりもっとモジャモジャです。でも、目だけは人の心の奥を、つらぬくような光をたたえていました。
「ええ、おそろしいことがあるんです。うちの裏庭の土のやわらかいところに、何か大きなけだものの足あとがついています。ゆうべ、そいつが塀の中へはいって来たしるしです。」
「大きなけだものというと?」
「虎です。ネコの足あとを十倍も大きくしたようなやつが、五つものこっています。キヨはそれを見て、けさからまっさおになって、ふるえあがっているんです。」
 キヨというのは、明智の家の女中の名です。
「塀をのりこえたんだね。」
「そうです。あいつはどんなことだって、できるんです。魔法博士の虎にきまっています。先生、そればかりじゃありません。裏口のドアの横の柱に、おそろしいささくれの傷ができているんです。天野勇一君のうちのマツの木にのこっていたのとソックリです。八幡さまの社殿の柱にのこっていたのとソックリです。虎の歯がたです。」
「魔法博士の虎が、東京の町の中を、ノコノコ歩いて来たというわけだね。それを、だれも気づかなかったというわけだね。」
 明智探偵の口のへんに、ひにくな笑いが浮かびました。
「先生、あいつは、ゆうべ、ここへ来ただけじゃありません。石川君のうちへも、田村君のうちへも、あらわれたのです。ふたりのうちにも、おなじような歯がたと足あとがのこっていたのです。つい、いましがた、ふたりがやって来て、それを知らせて行きました。先生、ぼくたちはどうすればいいのでしょう。」
「警視庁の中村係長は知っているだろうね。」
「電話で知らせておきました。田村君と石川君のうちへは、こんやから見はりをつけると言うことでした。でも、あいては魔法使いですから、見はりぐらいでは安心できません。」
「うん、魔法使いという点では、おどろくべきやつだ。こんなけたはずれな犯罪は、どこの国にも例がないだろうね。」
「先生、ぼくにも、あいつが舞台でやったブラック・マジックまではわかるのです。でも、そのあとのことは、何もかも、まるでわかりません。あの赤レンガの洋館から天野勇一君や、白くぬった広間や、サンタクロースのおじいさんや、それから、虎のはいった檻までも、たった一時間のあいだに、かき消すように、見えなくなってしまったなんて、まるで夢のような話です。先生、奇術の力で、こんなことができるのでしょうか。」
「それは、できないことはない。しかし、奇術には種がある。よくそんな種が、手にはいったものだと、ぼくはつくづく感心しているんだよ。」
「えッ、それじゃあ先生には、おわかりなんですか。勇一君なんかの消えた訳が、おわかりなんですか。」
「おおかた、想像がついているよ。いまにきみにもわかる。きっとわかる時がくる。それからね、きみは、まだすこしも気づいていないようだが、もっと大切なことがあるんだよ。」
 明智探偵はニッコリ笑って「もっとこちらへ。」というあいずをしました。小林君が、その意味をさっして、リンゴのような(ほお)を、ベッドの上の先生の顔のそばへもって行きますと、明智は、その耳たぶに口をよせて、何かささやきました。
 それを聞くと、小林君の目がびっくりするほど大きく見ひらかれ、サッと顔の色がかわりました。
「えッ、先生、それは、ほんとうですか。」
「うん、ぼくには、だいたいけんとうがついているんだ。しかし、これはいましばらく、だれにも言っちゃいけないよ。警察にも、少年探偵団のみんなにも、知らせてはいけない。ぼくと、きみとふたりだけの秘密にしておこう。」
 先生と弟子とは、そのまま、ジッと顔を見あわせていました。目と目とが、何かしきりに語りあい、やがて明智の口のへんに、ニコニコした笑いのしわがきざまれ、小林少年の頬には、もとのリンゴの色がもどって、それが、いっそうさえざえと、かがやいてくるのでした。

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