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こころ(上) 先生と私(33)

时间: 2017-10-28    进入日语论坛
核心提示:三十三 飯(めし)になった時、奥さんは傍(そば)に坐(すわ)っている下女(げじょ)を次へ立たせて、自分で給仕(きゅうじ)の役をつと
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三十三
 
 飯(めし)になった時、奥さんは傍(そば)に坐(すわ)っている下女(げじょ)を次へ立たせて、自分で給仕(きゅうじ)の役をつとめた。これが表立たない客に対する先生の家の仕来(しきた)りらしかった。始めの一、二回は私(わたくし)も窮屈を感じたが、度数の重なるにつけ、茶碗(ちゃわん)を奥さんの前へ出すのが、何でもなくなった。
「お茶? ご飯(はん)? ずいぶんよく食べるのね」
 奥さんの方でも思い切って遠慮のない事をいうことがあった。しかしその日は、時候が時候なので、そんなに調戯(からか)われるほど食欲が進まなかった。
「もうおしまい。あなた近頃(ちかごろ)大変小食(しょうしょく)になったのね」
「小食になったんじゃありません。暑いんで食われないんです」
 奥さんは下女を呼んで食卓を片付けさせた後へ、改めてアイスクリームと水菓子(みずがし)を運ばせた。
「これは宅(うち)で拵(こしら)えたのよ」
 用のない奥さんには、手製のアイスクリームを客に振舞(ふるま)うだけの余裕があると見えた。私はそれを二杯更(か)えてもらった。
「君もいよいよ卒業したが、これから何をする気ですか」と先生が聞いた。先生は半分縁側の方へ席をずらして、敷居際(しきいぎわ)で背中を障子(しょうじ)に靠(も)たせていた。
 私にはただ卒業したという自覚があるだけで、これから何をしようという目的(あて)もなかった。返事にためらっている私を見た時、奥さんは「教師?」と聞いた。それにも答えずにいると、今度は、「じゃお役人(やくにん)?」とまた聞かれた。私も先生も笑い出した。
「本当いうと、まだ何をする考えもないんです。実は職業というものについて、全く考えた事がないくらいなんですから。だいちどれが善(い)いか、どれが悪いか、自分がやって見た上でないと解(わか)らないんだから、選択に困る訳だと思います」
「それもそうね。けれどもあなたは必竟(ひっきょう)財産があるからそんな呑気(のんき)な事をいっていられるのよ。これが困る人でご覧なさい。なかなかあなたのように落ち付いちゃいられないから」
 私の友達には卒業しない前から、中学教師の口を探している人があった。私は腹の中で奥さんのいう事実を認めた。しかしこういった。
「少し先生にかぶれたんでしょう」
「碌(ろく)なかぶれ方をして下さらないのね」
 先生は苦笑した。
「かぶれても構わないから、その代りこの間いった通り、お父さんの生きてるうちに、相当の財産を分けてもらってお置きなさい。それでないと決して油断はならない」
 私は先生といっしょに、郊外の植木屋の広い庭の奥で話した、あの躑躅(つつじ)の咲いている五月の初めを思い出した。あの時帰り途(みち)に、先生が昂奮(こうふん)した語気で、私に物語った強い言葉を、再び耳の底で繰り返した。それは強いばかりでなく、むしろ凄(すご)い言葉であった。けれども事実を知らない私には同時に徹底しない言葉でもあった。
「奥さん、お宅(たく)の財産はよッぽどあるんですか」
「何だってそんな事をお聞きになるの」
「先生に聞いても教えて下さらないから」
 奥さんは笑いながら先生の顔を見た。
「教えて上げるほどないからでしょう」
「でもどのくらいあったら先生のようにしていられるか、宅(うち)へ帰って一つ父に談判する時の参考にしますから聞かして下さい」
 先生は庭の方を向いて、澄まして烟草(タバコ)を吹かしていた。相手は自然奥さんでなければならなかった。
「どのくらいってほどありゃしませんわ。まあこうしてどうかこうか暮してゆかれるだけよ、あなた。――そりゃどうでも宜(い)いとして、あなたはこれから何か為(な)さらなくっちゃ本当にいけませんよ。先生のようにごろごろばかりしていちゃ……」
「ごろごろばかりしていやしないさ」
 先生はちょっと顔だけ向け直して、奥さんの言葉を否定した。
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