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おはなし(1)

时间: 2020-11-30    进入日语论坛
核心提示: 私はこの学校は初めてで――エー来るのは始めてだけれどもご依頼を受けたのは、決して、初めてではありません。 二三年前、田
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  私はこの学校は初めてで――エー来るのは始めてだけれどもご依頼を受けたのは、決して、初めてではありません。
 二三年前、田中さん(田中喜一、東京高等工業学校教授)から頼まれたのです。その頃、頼みに来て下さった方は、もうご卒業なさったでしょう。それ以来、数十回のご依頼を受けましたがみんなおことわりしました。ことわるのは面白いからではなく、むを得ないからで、この止むを得ない事が、度重たびかさなっておきのどくなのでその結果今日やって来ました。言わば根くらべで根がつきて出て来たようなしまつ、面白い話もできかねます。今からとにかく一時間ばかり、話します。それゆえ、題なんかありません。
 私は専門があなた方とは全然ちがっています。こんな機会でなければ、顔をあわすことはありませんが、これでも私は工業の部門に属する専門家になろうとした事がありました。私は建築家になろうと思いました。なぜっていうような問題ではない、けれども話のついでに話します。
 まだ小供のとき、財産がなかったので、一人で食わなければならないという事は知っていました。忙がしくなく時間づくめでなくて、飯が食えるという事について非常になやみました。しかし立派な技術を持ってれば変人でも、頑固がんこでも人が頼むだろうと思いました。佐々木東洋という医者があります。この医者が大へんな変人で、患者をまるで玩具おもちゃか人形のように扱かう愛嬌あいきょうのない人です。それで、はやらないかといえば不思議なほどはやって門前もんぜんいちをなすありさまです。あんな無愛想な人があれだけはやるのは、やはり技術があるからだと思いました。ゆえに建築家になったら、私も門前市をなすだろうと思いました。高等学校時分の事でした、親友に米山保三郎という人、夭折ようせつしましたが、この人が説諭せつゆしました。その説諭に曰く、セントポールのような家は我国にははやらない。くだらない家を建てるよりは文学者になれといいました。当人が文学者になれというたのはよほどの自信があったからでしょう。私はそれでふっつりやめました。私のかんがえは金をとって、門前市をなして、頑固で、変人で、というのでしたけれども、米山は私よりは大変えらいような気がした。二人くらべると私がいかにもちっぽけなように思われたので、今までの考を止めました。そして文学者になりました。その結果は――分りません、恐らく死ぬまで分らないでしょう。それでこういう方面に入ったので、あなた方は専門としては、この方面ではないけれども、この会は文芸の会で、ベルグソンなども出るようですからこの事については共通しているようにも思われます。よく講演なんていうと西洋人の名前なんか出てきてききにくい人もあるようですが、私の今日のお話には片仮名の名前なんか一つもでてきません。
 私はかつてある所で頼まれて講演したとき、日本現代の開化という題で話しました。今日は題はない、分らなかったから、こしらえません。
 その講演のとき開化の definition を定めました。開化とは人間の energy で、これが二つの異った方向にびて行ったのが、入り乱れてできたので、その一つは活力の表顕ひょうけん、あるいは実顕といって energy を節約せんとする吾人の努力、他の一つは energy を消耗せんとする consumption of energy である。この二つが大なる factor でこれ以外には、何もない。ゆえにこの二つのものは開化の factor として sufficient and necessary である。それで第一の活力を節約せんとする努力は種々の方向へ出るが、まず距離をつめる、時間を節約する。手でやれば一時間かかる事も、機械で三十分でやってしまう。あるいは手でやれば一時間かかって一つできるところを、十も二十もつくることが、吾々の生活の便を計るのです。これがあなた方の専門のもので、他の factor すなわち consumption of energy の努力は積極的のもので、ある人から見れば、国力等の立場より見なして消極的に誤解されてる文学、美術、音楽、劇等なくてすむものであります、しかもありたいものなのです。これらは幾分か片方で切りつめてこの余った energy をこの方に向ける、どちらかといえばおしのふとい方なのです。私などはこの方面へ向って行く、この方面からいえば時間距離なんていう考はありません、飛行機――飛行機のような早いものの必要もなく、堅牢けんろうなものの必要もなく、数でこなす必要もない。生涯にたった一つだっていいのを書けばいいのです。
 すなわちあなた方とはかく反対になっているのです。二つのものの性質を概括していうときは、あなた方の方は規律で行き、私どもの方は不規律で行く。その代り報酬はごく悪い。金持になる人なりたい人は、規律に服従せねばならない。
 あなた方の方は mechanical science の応用で私どもの方は mental なのだから割がいいようだ。けれども実は大変に損をしているのです。しかしあなた方は自由が少いが私どもは自由というものがなければできない仕事であります。なおいいかうればあなた方は仕事に服従して我というものをなくなさなければできないのです。各自個々勝手な方面へ行ったなら、仕事はできない。私どもの方は我を発揮せなければ、何もできませぬ。
 そこで、あなた方の方でする仕事というものを見ると普遍的すなわち universal の性質を持っている。私どもの方は universal でなくて personal の性質を持っています。なお敷衍ふえんしていえばあなた方はまず公式を頭の中に入れて、その application が必要である。それは人間が考えたものにちがいないけれども、私がこのものがいやだというても御免こうむることはできない。universal ということは personality という個人としての人格じゃなく、personality を eliminate し得る仕事なのです。この鉄道は誰が敷設ふせつしたという事は素人にはあまり参考になりません。この講堂は誰が作ったって問題にならない。あすこにぶらさがってるランプだか、電気だか何だか知らないが、これには何の personality もない。すなわち自然の法則を apply しただけなのであります。
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