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永日小品(えいじつしょうひん)--紀元節

时间: 2020-11-30    进入日语论坛
核心提示: 南向きの部屋であった。明(あ)かるい方を背中にした三十人ばかりの小供が黒い頭を揃(そろ)えて、塗板(ぬりばん)を眺めていると
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 南向きの部屋であった。()かるい方を背中にした三十人ばかりの小供が黒い頭を(そろ)えて、塗板(ぬりばん)を眺めていると、廊下から先生が這入(はい)って来た。先生は背の低い、眼の大きい、()せた男で、(あご)から(ほお)へ掛けて、(ひげ)爺汚(じじむさ)()えかかっていた。そうしてそのざらざらした顎の(さわ)る着物の(えり)が薄黒く垢附(あかづ)いて見えた。この着物と、この髯の不精(ぶしょう)に延びるのと、それから、かつて小言(こごと)を云った事がないのとで、先生はみなから馬鹿にされていた。
 先生はやがて、白墨を取って、黒板に記元節と大きく書いた。小供はみんな黒い頭を机の上に押しつけるようにして、作文を書き出した。先生は低い背を伸ばして、一同を見廻していたが、やがて廊下伝いに部屋を出て行った。
 すると、(うしろ)から三番目の机の中ほどにいた小供が、席を立って先生の洋卓(テーブル)(そば)へ来て、先生の使った白墨を取って、塗板(ぬりばん)に書いてある記元節の記の字へ棒を引いて、その(わき)へ新しく紀と肉太(にくぶと)に書いた。ほかの小供は笑いもせずに驚いて見ていた。さきの小供が席へ帰ってしばらく立つと、先生も部屋へ帰って来た。そうして塗板に気がついた。
「誰か記を紀と直したようだが、記と書いても好いんですよ」と云ってまた一同を見廻した。一同は黙っていた。
 記を紀と直したものは自分である。明治四十二年の今日(こんにち)でも、それを思い出すと下等な心持がしてならない。そうして、あれが爺むさい福田先生でなくって、みんなの(こわ)がっていた校長先生であればよかったと思わない事はない。

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