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永日小品(えいじつしょうひん)--行列

时间: 2020-11-30    进入日语论坛
核心提示:ふと机から眼を上げて、入口の方を見ると、書斎の戸がいつの間にか[#「いつの間にか」は底本では「いつの間か」]、半分明いて
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ふと机から眼を上げて、入口の方を見ると、書斎の戸がいつの間にか[#「いつの間にか」は底本では「いつの間か」]、半分明いて、広い廊下が二尺ばかり見える。廊下の尽きる所は(から)めいた手摺(てすり)(さえぎ)られて、上には硝子戸(ガラスど)が立て切ってある。青い空から、まともに落ちて来る日が、軒端(のきば)(はす)に、硝子を通して、縁側(えんがわ)の手前だけを明るく色づけて、書斎の戸口までぱっと暖かに射した。しばらく日の照る所を見つめていると、眼の底に陽炎(かげろう)()いたように、春の思いが(ゆた)かになる。
 その時この二尺あまりの隙間(すきま)に、(くう)を踏んで、手摺(てすり)の高さほどのものがあらわれた。赤に白く唐草(からくさ)を浮き織りにした絹紐(リボン)を輪に結んで、額から髪の上へすぽりと()めた間に、海棠(かいどう)と思われる花を青い葉ごと、ぐるりと()した。黒髪の()薄紅(うすくれない)(つぼみ)が大きな(しずく)のごとくはっきり見えた。割合に詰った(あご)の真下から、一襞(ひとひだ)になって、ただ一枚の(むらさき)(えん)までふわふわと動いている。(そで)も手も足も見えない。影は廊下に落ちた日を、するりと抜けるように通った。(あと)から、――
 今度は少し低い。真紅(しんく)の厚い織物を脳天から肩先まで(かぶ)って、余る背中に筋違(すじかい)(ささ)の葉の模様を背負(しょ)っている。胴中(どうなか)にただ一葉(ひとは)消炭色(けしずみいろ)の中に取り残された緑が見える。それほど笹の模様は大きかった。廊下に置く足よりも大きかった。その足が赤くちらちらと三足ほど動いたら、低いものは、戸口の幅を、音なく行き過ぎた。
 第三の頭巾(ずきん)は白と(あい)弁慶(べんけい)格子(こうし)である。眉廂(まびさし)の下にあらわれた横顔は丸く(ふく)らんでいる。その片頬の真中が林檎(りんご)の熟したほどに濃い。尻だけ見える茶褐色の眉毛(まみえ)の下が急に落ち込んで、思わざる(あたり)から丸い鼻が(ふく)れた頬を少し乗り越して、先だけ顔の外へ出た。顔から下は一面に黄色い(しま)で包まれている。長い袖を三寸余も(えん)()いた。これは頭より高い胡麻竹(ごまだけ)(つえ)を突いて来た。杖の先には光を帯びた鳥の()をふさふさと着けて、照る日に輝かした。縁に牽く黄色い縞の、袖らしい裏が、銀のように光ったと思ったらこれも行き過ぎた。
 すると、すぐ後から真白な顔があらわれた。額から始まって、平たい頬を塗って、(あご)から耳の附根(つけね)まで(さかの)ぼって、壁のように静かである。中に(ひとみ)だけが活きていた。(くちびる)(べに)の色を重ねて、青く光線を反射した。胸のあたりは(はと)の色のように見えて、下は(すそ)までばっと視線を乱している中に、小さなヴァイオリンを(かか)えて、長い弓を(おごそ)かに(かつ)いでいる。二足で通り過ぎる(うしろ)には、背中へ黒い繻子(しゅす)の四角な(きれ)をあてて、その真中にある金糸(きんし)刺繍(ぬい)が、一度に日に浮いた。
 最後に出たものは、全く()さい。手摺の下から(ころ)げ落ちそうである。けれども大きな顔をしている。その(うち)でも頭はことに大きい。それへ五色の(かんむり)(いただ)いてあらわれた。冠の中央にあるぽっちが高く(そび)えているように思われる。身には井の字の模様のある筒袖(つつそで)に、藤鼠(ふじねずみ)天鵞絨(びろうど)の房の(さが)ったものを、背から腰の下まで三角に垂れて、赤い足袋(たび)を踏んでいた。手に持った朝鮮の団扇(うちわ)身体(からだ)の半分ほどある。団扇には赤と青と黄で(ともえ)(うるし)()いた。
 行列は静かに自分の前を過ぎた。開け放しになった戸が、(むな)しい日の光を、書斎の入口に送って、縁側(えんがわ)に幅四尺の(さび)しさを感じた時、向うの(すみ)で急にヴァイオリンを(こす)る音がした。ついで、小さい咽喉(のど)が寄り合って、どっと笑う声がした。
 (うち)の小供は毎日母の羽織や風呂敷を出して、こんな遊戯(いたずら)をしている。

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