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薤露行: 一 夢(2)

时间: 2021-01-10    进入日语论坛
核心提示:「贈りまつれる薔薇の香(か)に酔(え)いて」とのみにて男は高き窓より表の方(かた)を見やる。折からの五月である。館を繞(めぐ)り
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「贈りまつれる薔薇の()()いて」とのみにて男は高き窓より表の(かた)を見やる。折からの五月である。館を(めぐ)りて(ゆる)()く江に千本の柳が明かに影をして、空に(くず)るる雲の峰さえ水の底に流れ込む。動くとも見えぬ白帆に、人あらば節面白き舟歌も興がろう。河を隔てて()()隠れに白くく筋の、一縷(いちる)の糸となって(けむり)に入るは、立ち(のぼ)る朝日影に(ひづめ)(ちり)を揚げて、けさアーサーが円卓の騎士と共に北の(かた)へと飛ばせたる本道である。
「うれしきものに罪を思えば、罪長かれと祈る()き身ぞ。君一人館に残る今日を忍びて、今日のみの(えにし)とならばうからまし」と女は安らかぬ心のほどを口元に見せて、珊瑚(さんご)の唇をぴりぴりと動かす。
「今日のみの縁とは? 墓に()かるるあの世までも(かわ)らじ」と男は黒き(ひとみ)を返して女の顔を(じっ)と見る。
「さればこそ」と女は右の手を高く()げて広げたる(てのひら)(たて)にランスロットに向ける。手頸(てくび)(まと)黄金(こがね)の腕輪がきらりと輝くときランスロットの瞳はわれ知らず動いた。「さればこそ!」と女は繰り返す。「薔薇の()に酔える病を、病と許せるは我ら二人のみ。このカメロットに集まる騎士は、五本の指を五十度繰り返えすとも数えがたきに、一人として北に行かぬランスロットの病を疑わぬはなし。(つか)の間に危うきを(むさぼ)りて、長き()()(ふち)と変らば……」といいながら挙げたる手をはたと落す。かの腕輪は再びきらめいて、玉と玉と撃てる音か、戛然(かつぜん)と瞬時の響きを起す。
「命は長き賜物ぞ、恋は命よりも長き賜物ぞ。心安かれ」と男はさすがに大胆である。
 女は両手を延ばして、戴ける冠を左右より抑えて「この冠よ、この冠よ。わが額の焼ける事は」という。願う事の(かな)わばこの黄金、この珠玉(たま)の飾りを脱いで窓より下に投げ付けて見ばやといえる(さま)である。白き(かいな)のすらりと絹をすべりて、抑えたる冠の光りの下には、渦を巻く髪の毛の、珠の輪には抑えがたくて、頬のあたりに(なび)きつつ洩れかかる。肩にあつまる薄紅の衣の(そで)は、胸を過ぎてより豊かなる(ひだ)を描がいて、裾は強けれども(かた)からざる線を三筋ほど(ゆか)の上まで引く。ランスロットはただ窈窕(ようちょう)として眺めている。前後を截断(せつだん)して、過去未来を失念したる間にただギニヴィアの形のみがありありと見える。

 

 

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