友人から「食いしん坊」とよく言われる。ケーキに目がないし、あんみつも好き。ラーメンもフランス料理もどんと来い。この店、あのレストランと食べ歩くことも多い。幼いころの食生活が貧しかった反動かもしれない。
私の小学校時代、主な食料は配給制だった。配給の行列に母と並んだ記憶は、私のささやかな戦後体験の一つだ。もう半世紀も前の話になる。当時はお米も自由に買えなかったのだ。ご飯の中には麦や芋が入っていた。思いだしたくないほど、麦のご飯はまずかった。「すいとん」が食事の日もよくあった。それでもけなげに、幼い私が「お芋だってご飯になるんだよ」と言ったと、祖母は不憫がった。
友達の家で初めてバターを食べた。口の中でとろけていくバターを味わいながら、世の中にこんなにおいしいものがあったのかと驚いた。そのころのマーガリンは文字通り油の塊で、現在のおいしいマーガリンとは全然別物だったのだ。
友達の誕生会に招待されたときのことだ。当時誕生会をする子供はほとんどいなかったが、私の親友は大きな屋敷のお嬢さんだった。そこで初めて「チャーハン」というものを食べた。おいしかった。そのチャーハンには「旗」が飾られていて、とてもまぶしく見えた。
いろいろな食べ物が初めてという経験をしながら育ってきた。私のような子供は珍しくない。私の友達はお土産にもらったバナナをこっそり食べたが、おいしいと聞いていたバナナがすごくまずい。なんとそのとき、バナナの皮をむかないで食べたのだった。
今は食べ物があふれていて、おいしい物や珍しい物が食べられる。食いしん坊な私には幸せな時代だ。でもあの「バター」や「チャーハン」に出会ったときのような驚きや感激はない。