旅行によく出かける。見知らぬ土地で、その土地らしい風物を見るのが楽しみだ。あれこれ見たがるので、1カ所でのんびり過ごしたい人とは気が合わない。最近はよく友達とパック旅行を利用する。個人旅行より割安なためだ。なるべく自由時間が多いコースを選んで参加する。予約など面倒なことは他人にお任せできるから楽と言えば楽なのだが、ちょっと物足りない。
学生時代はもっぱら1人旅だった。1人旅はつまらないだろうと言われたが、そんなことはない。とても楽しかった。時刻表を頼りに、10日ぐらいぶらぶら旅先を歩いた。当日の朝、ユースホステルを予約する他は縛られることはない。
男子学生は駅に泊まったり野宿したりしていて、とても羨ましかった。何といっても無料だから。1日1000円(当時、学生食堂の定食は55円)を目安の貧乏旅行。もちろん往復の交通費込み。だから名物などは食べられない。昼は駅の立ち食いそば専門。交通費も節約しなければならないから地図を片手によく歩いた。その結果、土地の人が知らないような場所にも行くことができた。
また多くの出会いもあった。旅先で出会った奈良女子大の学生に大学の寮に泊めてもらったこともあった。時計が壊れて困っていたら、大阪の大学生が貸してくれた。夜道は危ないからとユースホステルまで送ってくれた八百屋のおじさんもいた。
しかし、いいことばかりではない。ある時、時刻表を見て急行に乗り換えようと列車を降りたら、季節列車でその日は運休。結局、駅でたった1人で3時間ばかりぼうっと過ごすほかなかった。
いろいろな旅をしてきたが、初めての1人旅は広島だった。平和記念公園や比治山で何時間も過ごした。路面電車に沿って町中を黙々と歩いた。山の上から町を眺めた。無理な話だが、広島のすべてを見たかった。原爆を、そこからの再生を見届けたかった。当時私は問題を抱えていた。私は広島で何かを得たかったのかもしれない。広島に力づけて欲しかったのかもしれない。結局、私はまる3日広島にいた。そして元気になった。
私にとって旅はストレス解消。普段の生活から離れて自分を見つめるいい機会だった。