たとえば、四本脚の物体を見たときに、「これは何だろう」と迷う人は少ない。過去に繰り返し経験してきた認知からスキーマができているので、即席に「これはおそらくテーブルだろう」「これは背もたれがあるから椅子だろう」というように判断ができる。
教育というのは、そうしたスキーマを作り出すためのものとも言える。スキーマを持つことによって、思考がショートカットされて、効率的に物事を認知することができる。テストの問題を見たときに、「これは鶴亀算の問題だろう」とか「これは二次関数の問題だ」とすぐに見抜けるのは、スキーマのおかげだ。将棋でも、定石を覚えるのはスキーマを作るためのものといっていいだろう。
しかし、スキーマというのはある種の決めつけであるので、スキーマが( 1 )。
例えば「茶髪=不真面目」というようなスキーマがあると、それ以外の考え方ができなくなって、茶髪の人の本当の能力を見ようとしなくなってしまう。もしかすると、茶髪の人がずば抜けた才能の持ち主かもしれないのに、スキーマのせいでそれを見逃してしまう。
世間では、「数学ができる人は、理知的な人」「国語ができる人は、情緒的な人」というスキーマがあるが、本来は、人それぞれ違っているはずだ。
(中略)
人間は、スキーマが強いと、自分の思い通りの情報しか受け入れようとしなくなり、別の情報は切り捨ててしまう。その結果、固定観念が強まってしまい、ますます思い込みが激しくなる。情報が偏り、推論の幅が狭くなってしまうので、時代が急速に変わりつつある現在の状況にはついていけなくなる。気づいたときには、リストラ候補になってしまうかもしれない。
スキーマの中には、教育によって身につけたスキーマもあるが、経験によって身につけたスキーマもある。自分の成功体験からできたスキーマは、なかなか疑いにくい。そこに大きな落とし穴が隠れている可能性もある。自分がスキーマに左右されていないかを疑い、「本当にこの考え方しかないのか」「別の可能性はないだろうか」と探ってみる必要があるだろう。
(和田秀樹「30歳からの10倍差がつく勉強法」による)
1、( 1 )に入るものとして最も適切なのはどれか。
①効果的に機能しないこともある。
②人々の判断力を高める働きもある。
③現状を把握できない場合もある。
④幅広い考え方を邪魔することもある。
2、筆者はスキーマの利点と欠点をそれぞれどのように説明しているか。
①スキーマの作用によって、幅広い考えを持つことが可能だが、その反面、自分のことを疑わなくなり、自信過剰になりやすい。
②スキーマを持つことで物事の本質を見抜くことができるが、一方、ほかの情報に気づかなくなり大きなミスをする危険性がある。
③スキーマの作用によって、過去の経験が活性化する反面、新しい発見ができなくなり、時代遅れになるおそれがある。
④スキーマを持つことで物事をより効率的に認知できるが、一方、思い込みが激しくなり決まった考えにしばられる可能性もある。
3、筆者の考えと合っているのはどれか。
①今までの成功体験から生まれたスキーマをうまく利用し、次の成功に活かすべきだ。
②時代が激しく変わりつつある現在、スキーマの働きを克服し、今までとは違うやり方にチャレンジする必要がある。
③教育や経験から身につけたスキーマの機能を活用すると同時に、スキーマにとらわれない考えを持つことが大切だ。
④人の才能は本来それぞれ違っているので、スキーマという決まった考えから解放されることで、より豊かな発想が生まれてくる。