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金縁の鼻眼鏡(6)

时间: 2024-02-20    进入日语论坛
核心提示:「はい、ホームズさん、その通りなんですよ。先生は、それは驚くほど煙草をお飲みになります。一日じゅう、いえひと晩じゅう煙草
(单词翻译:双击或拖选)

「はい、ホームズさん、その通りなんですよ。先生は、それは驚くほど煙草をお飲みにな

ります。一日じゅう、いえひと晩じゅう煙草をお飲みになっていることもございます。い

つか朝方、お部屋にうかがったときも……そうでございますね、ロンドンの霧みたいで。

お可哀そうなスミスさんも煙草は召し上がりましたが、先生ほどじゃありませんでした

わ。先生のご健康……そうですわね、煙草がお体によいか悪いか、それはわかりません

が」

「うん! でも食欲は減るもんだよ」とホームズは言った。

「はあ、どうですか私には」

「先生はほとんど何も召し上がらないだろう?」

「いえ、先生はとてもムラがございまして、そのこと、今度先生に申してみましょうか」

「先生は今朝は何も食べなかったし、あんなに煙草を吸っていらしたから、おそらく昼食

もお上がりにならないよ。賭けてもいいぜ」

「ところがあなた、全然はずれました。先生は今朝はずいぶん召し上がりましたわ。あん

なにたくさんお上がりになったなんて初めてですわ。そのうえ、お昼にはカツレツの大き

いのをというご注文なんですよ。驚きますわ。私なんぞ昨日スミスさんが死んでおられる

のを見てからは食べ物なんてぞっとします。でも世は様々でございますからね。先生はあ

れくらいのことで食欲がなくなるなんてことは、おありにならないようですわ」

 われわれは午前中を庭で過ごした。スタンリー・ホプキンズは前の日の朝、チャタム街

道で見なれぬ女をどこかの子供が見たそうだという噂を調べに村に出かけて行っていた。

ホームズはといえは、日頃の精力はすっかりなくなってしまったふうであった。私は彼が

事件に対面してこんな気のない様子をしているのを見たことがない。

 ホプキンズが帰って来て、子供をつかまえて、ホームズが言った通りの鼻眼鏡か、普通

の眼鏡をかけた女をたしかに見ているというニュースを伝えても、彼はとんと興のあるよ

うな様子を示さなかった。

 昼食に給仕をしてくれたスーザンが、スミスさんは昨日の朝出かけて、惨劇の起こる三

十分ばかり前にお帰りになったという話をしたときのほうが、まだ興のあるような顔だっ

た。そのことがどんな関係があるか、私にはわからなかったが、ホームズが頭の中で作り

上げている事件の骨組の中に、そのことも織りこんでいるらしいことはわかった。

 突然、彼は椅子から飛び上がって時計を見た。

「二時だぞ、さあ、みんな教授のところへ行って話をつけなけりゃならん」彼は言った。

 老人はちょうど昼食を終えたところで、彼の前にある、からになった皿は、家政婦が

いったように、旺盛な食欲があることを証拠だてていた。白髪の頭を振り向けて、ぎらぎ

らした目でわれわれを眺める老教授の姿は鬼気せまるものがあった。口には、離したこと

のない煙草が煙を上げている。彼は着物を着て、炉のそばの肘掛け椅子に坐っていた。

「さあて、ホームズさん。謎は解けましたかな?」

 彼はテーブルの上の、煙草の入っている大きなブリキの箱をホームズのほうに押しやっ

た。同時にホームズは手をのばしたが、その瞬間、彼は箱をひっくり返してしまった。わ

れわれはしばらく、とんでもないところまで散らばった煙草を膝をついて拾った。

 立ち上がったとき、私はホームズの目が輝き、頬に赤味がさしているのに気がついた。

これはいよいよ時が迫った、戦いのしるしだなと私は思った。

「ええ、解けましたよ」彼は言った。

 スタンリー・ホプキンズと私はすっかり驚いてしまった。老教授のやせた額には冷笑に

似たものが浮かんだ。

「ほう! 庭でですか」

「いいや、ここでですよ」

「ここで! いつです?」

「たった今」

「シャーロック・ホームズさん。冗談を言っては困りますな。そんな冗談にまぎらすに

は、あまりに重大な事件であることをご注意申し上げたい」

「私は鎖の一環一環を鍛 きた え、試しているのですよ、コーラム教授。そしてこれは間違い

なしなんです。どんな動機があなたにあったか、この怪事件にあなたがどんな役割を果た

したか、それはまだわかりません。しかしそれもこの数分以内に、あなたご自身の口から

聞かして頂けるでしょう。それはさておき、よくおわかりになるように、今まで起こった

ことを系統だてて話してみましょう。そうすれば、私にまだわかってないことは何か、あ

なたにはおわかりでしょうから。

 一人のご婦人が昨日、あなたの書斎に入られた。彼女はあなたの箪笥の中にある、ある

書類を持ち出す目的で忍び込んだのです。彼女は自分で鍵を持っておりました。私は幸い

あなたのお持ちになっている鍵を調べることができましたが、それには戸棚のニスに傷を

こさえたような形跡はありませんでした。ですから、あなたが共犯ではないわけです。そ

こで女は私の証拠によれば、あなたにかくして盗みに入ったのです」

 教授は口から煙を吐いた。

「これはまったく面白い。興味ある話ですな」彼は言った。「しかしそれだけですか?

そこまで女の行動がおわかりなら、その後どうしたかもおわかりなんでしょうな」

「ぼつぼつと話しましょう。まず最初に、女はあなたの助手につかまえられた。逃げよう

として彼を刺した。この惨劇は不幸な偶然事だと私は思っています。なぜなら、女はこの

ように恐ろしい危害を加えるつもりは毛頭 もうとう なかったと思うのです。人殺しが目的なら凶

器を持たずに来るはずはありません。女は自分のやってしまったことの恐ろしさに、惨劇

の場から大あわてで逃げ出しました。ところが困ったことに、彼女は格闘の際に眼鏡をな

くしてしまったのです。彼女はひどい近視だったので眼鏡がなくてはどうしようもありま

せん。彼女は入って来た廊下だと間違えて、この廊下を走りました……どちらも椰子表の

上敷がしいてありますしね……間違えたと気づいたときはもう遅く、逃げ場を失ってしま

いました。どうしたらよいか? 今さら引っかえすわけにはいきません。なおさらここに

留っていることもできません。とにかく逃げなくてはならないのです。彼女は前に進みま

した。階段を上がってドアをあけて、いつかあなたの寝室に入ってしまったのです」

 老人はポカンと口を開けたまま、じっとホームズの顔をみつめていた。彼の動揺した顔

には驚きと恐怖がありありと現われている。ややあって彼は、作意のある笑い声を肩をふ

るわせて響かせた。

「すばらしい推理だ。ホームズさん。しかしそのご立派な説にひとつ小さな傷があります

な。私はこの部屋におって、一日じゅう外へ出なかったんですよ」

「もちろんそれは知っております、コーラム先生」

「するとあなたは私がベッドに横になっておって、ご婦人が部屋に入って来たのに気づか

なかったとおっしゃるのですかな」

「いえ、そうは言いません。あなたはお気づきになっていたのです。あなたは女と話して

その女が誰であるかおわかりになった。そしてあなたは彼女の逃げるのを手伝われた」

 ふたたび教授はかん高い笑い声をあげた。彼は立ち上がり、その目は燃えさしの木のよ

うに輝いていた。

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