さて、あるとき、ヨリンデという娘がいて、他のどの娘よりもきれいでした。ヨリンデとヨリンゲルというハンサムな若者は結婚の約束をしていました。二人はまだいいなずけの日々を過ごし、一緒にいることが一番の幸せでした。ある日、静かに語り合うために二人は森へ散歩にいきました。「気をつけて」とヨリンゲルは言いました。「城に近づきすぎないように。」美しい夕方でした。太陽が木々の幹の間から暗い森の緑に明るく射し込み、キジバトがブナの木の上でもの悲しく鳴いていました。ヨリンデは時々泣き、日なたに腰を下ろすと切なそうにしていました。ヨリンゲルも悲しく、二人は今にも死ぬかと思うくらい切なかったのです。そのとき二人は周りを見回して、すっかり途方にくれました。というのは家に帰る道がわからなかったからです。太陽はまだ半分山の上にあり、半分は山の下にありました。ヨリンゲルはしげみの間から見ると、古い城の壁がすぐ間近に迫って見えました。ヨリンゲルはぎょっとして死ぬほどの恐怖に襲われました。
ヨリンデが歌っていました。
「赤い首飾りをした私の小鳥、悲しい、悲しい、悲しい、と鳴く、鳩がまもなく死ぬと鳴く、悲しいと鳴く、悲...ジャグ、ジャグ、ジャグ」
ヨリンゲルがヨリンデの方を見ると、ナイチンゲールに変わっていて、ジャグ、ジャグ、ジャグと鳴きました。光り輝く目をしたふくろうがナイチンゲールの周りを三回飛びまわり、「ホーホーホー」と三回鳴きました。ヨリンゲルは動けませんでした。そこに石のようにつっ立って、泣くことも話すことも、手足を動かすこともできませんでした。太陽はもう沈んでしまいました。
ふくろうが木の茂みに飛んで入り、すぐあとでそこから腰の曲がったばあさんが出てきました。肌が黄ばみやせていて、大きな赤い目とあごに先が届く鉤鼻をしていました。ばあさんはぶつぶつ呟きながら、ナイチンゲールをつかまえ、手の中に入れて持って行きました。ヨリンゲルは話すこともその場から動くこともできませんでした。ナイチンゲールはいなくなってしまいました。しまいにばあさんは戻ってきて、しわがれた声で「今晩は、ザキエル、月の光が鳥かごにさしたら、ザキエルよ、すぐに放しておやり」と言いました。するとヨリンゲルの魔法が解かれました。ヨリンゲルはばあさんの前に膝まづいて、僕のヨリンデを返してください、と頼みましたが、ばあさんは、お前は二度と娘に会えないよ、と言うと行ってしまいました。ヨリンゲルは、叫んで、泣いて、嘆きましたが、何もかも無駄でした。「僕はどうなるんだ?」
ヨリンゲルは立ち去り、とうとう知らない村にたどりつきました。そこで長い間羊の世話をしました。
ヨリンゲルはよく城の周りをぐるぐる歩き回りましたが、あまり近くには行きませんでした。とうとうある夜、夢を見て、真ん中に美しい大きな真珠がある血のように赤い花を見つけ、その花を採り、それを持って城に行きました。その花で触れると、あらゆるものの魔法が解かれました。また夢の中で、その花のおかげで愛するヨリンデも取り戻したのです。
朝になって目が覚めると、ヨリンゲルは山や谷を越えてそのような花を探し始めました。九日目まで探して、朝早く、血のように赤い花を見つけました。その花の真ん中に素晴らしい真珠ほど大きい露がありました。昼も夜もこの花を持って城に歩いていきました。
城の百歩内に入っても、体が釘づけにされず、戸口まで歩いていけたので、ヨリンゲルは嬉しくてたまりませんでした。戸は花で触れると、パッと開きました。中庭を通りぬけ入っていき、鳥たちの鳴き声を探して耳をすましました。とうとう鳴き声が聞こえました。ヨリンゲルは進んでいって、鳴き声が聞こえる部屋を見つけました。するとそこで魔女が七千の鳥かごの鳥たちにえさをやっていました。魔女はヨリンゲルを目にするとむっとしてひどく怒り、がみがみ怒鳴り毒を吐き、ヨリンゲルに歯をむきましたが、二歩手前までしか近づけませんでした。
ヨリンゲルは魔女に注意を払わずに鳥たちのかごに行って見てまわりました。しかし、何百というナイチンゲールがいて、どうしたら愛するヨリンデを見つけられるでしょうか。ちょうどそのとき、ばあさんがこっそり鳥かごをとって、戸口に向かうのが見えました。ヨリンゲルは素早くばあさんの方へとんでいき、鳥かごに花で触れ、またばあさんにも触れました。それでもうばあさんはだれも魔法にかけられなくなりました。そしてヨリンデがそこに立ち、ヨリンゲルの首を抱きしめました。ヨリンデは以前と変わらず美しいままでした。それから他の鳥たちもみんな娘に戻りました。ヨリンゲルは愛するヨリンデと一緒に家に帰り、二人は長い間いっしょに幸せに暮らしました。