亭主は耳をすまし、少しの間斧をおろし、一体どういう意味だろうかと考え始めました。しばらくしてとうとう「いったい何だっていうんだ?耳鳴りがしていたにちがいない。何でもないのにこわがったりしないぞ。」と言って、また斧をつかみ、切り始めました。するとまた下から叫び声が聞こえました。
亭主はピタッと止まり、こわくなって、事態を考えてみました。しかし、しばらくしてまた気を取り戻し、三回目に斧に手を伸ばし切り始めました。しかし、だれかが三度目に大声で叫びました。
もうたくさんでした。亭主はすっかりやる気をなくしてしまい、急いで木から降りると、家に帰り始めました。おかみさんは亭主より先に家に着くために脇道を通って一生懸命走りました。それで亭主が居間に入って来たとき、何もなかったように何食わぬ顔をして、「あら、巻き枠のいい木をとってきたの?」と言いました。「いや」と亭主は言いました。「巻くのはよくないとわかったよ。」それで森であったことをおかみさんに話し、それからはおかみさんは糸巻きのことでうるさく言われず安心でした。
ところが、しばらくすると、亭主は家の中が散らかっているとまた文句を言いだしました。「お前な」と亭主は言いました。「紡ぎ糸がからまったままそこにあるのは本当にみっともないぞ!」「そうね」とおかみさんは言いました。「巻き枠がまだ手にはいらないんだから、あんたが屋根裏に上って行って、私は下に立っているわ。糸をあんたに投げ上げるから、あんたはそれを落としてよこしてよ。それで結局は一かせの束になるわよ。」「よし、それでいいだろう」と亭主は言いました。そういうわけで二人はそうして、それが終わると、亭主は、「糸が束になったぞ。今度は煮なくてはいけないな。」と言いました。おかみさんはまた気が重くなりました。きっぱりと「ええ、明日の朝早く煮ましょう」と言いましたが、密かに別の計略を練っていました。
朝早くおかみさんは起きて、火をもやし、釜をかけ、ただ糸の代わりに麻屑のかたまりを入れ、煮ました。そのあとベッドにまだねていた亭主のところに行き、「ちょっと出かけなくちゃいけないの。あんた、起きて、火にかけてある釜の中の糸を見てちょうだい。だけどすぐにやらなくちゃいけないわ。気をつけてよ。おんどりが時をつくるときにあんたが糸のところに立っていないようなら、糸は麻屑になるからね。」亭主は承知してぐずぐずしないように用心し、大急ぎで起きて台所に行きました。しかし、釜のところに着いて中を覗くと、恐ろしいことに、麻屑のかたまりしか見えませんでした。それで、かわいそうに亭主は、自分が失敗した、自分のせいだ、と考えて、ねずみのように静かになってしまい、それからはもう糸や糸紡ぎのことは言わなくなりました。
まあだけど、あなただって、これは鼻もちならない女だって認めるにちがいありませんよ。