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クンねずみ

时间: 2015-08-19    进入日语论坛
核心提示:クンねずみのうちは見はらしのいいところにありました。 すぐ前に下水川があって、春はすももの花びらをうかべ、冬はときどき
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   クンねずみのうちは見はらしのいいところにありました。
 すぐ前に下水川があって、春はすももの花びらをうかべ、冬はときどきはみかんの皮を流しました。
 下水川の向うには、通りの野原がはるかにひろがっていて、つちけむりの霞がたなびいたり、黄いろな霧がかかったり、その又向うには、酒屋の土蔵がそら高くそびえて居りました。
 その立派な、クンねずみのおうちへ、ある日、友達のタねずみがやって来ました。
 全体ねずみにはいろいろくしゃくしゃな名前があるのですからいちいちそれをおぼえたらとてももう大へんです。一生ねずみの名前だけのことで頭が一杯になってしまいますからみなさんはどうかクンという名前のほかはどんなのが出て来てもおぼえないで下さい。
 さてタねずみはクンねずみに云いました。
「今日は、クンねずみさん。いいお天気ですね。」
「いいお天気です。何かいいものを見附けましたか。」
「いいえ。どうも不景気ですね。どうでしょう。これからの景気は。」
「さあ、あなたはどう思いますか。」
「そうですね。しかしだんだんよくなるのじゃないでしょうか。オウベイのキンユウはしだいにヒッパクをテイしなそう……。」
「エヘン、エヘン。」いきなりクンねずみが大きなせきばらいをしましたので、タねずみはびっくりして飛びあがりました。クンねずみは横を向いたまま、ひげを一つぴんとひねって、それから口の中で、
「へい、それから。」と云いました。
 タねずみはやっと安心して又お膝に手を置いてすわりました。
 クンねずみはやっとまっすぐを向いて云いました。
「先ころの地震にはおどろきましたね。」
「全くです。」
「あんな大きいのは私もはじめてですよ。」
「ええ、ジョウカドウでしたねも。シンゲンは何でもトウケイ四十二度二分ナンイ」
「エヘンエヘン」
 クンねずみは又どなりました。
 タねずみは又全く面くらいましたがさっきほどではありませんでした。クンねずみはやっと気を直して云いました。
「天気もよくなりましたね。あなたは何かうまい仕掛けをして置きましたか。」
「いいえ、なんにもして置きません。しかし、今度天気が永くつづいたら、私は少し畑の方へ出て見ようと思うんです。」
「畑には何かいいことがありますか。」
「秋ですからとにかく何かこぼれているだろうと思います。天気さえよければいいのですがね。」
「どうでしょう。天気はいいでしょうか。」
「そうですね。新聞に出ていましたが、オキナワレットウにハッセイしたテイキアツは次第にホクホクセイのほうへシンコウ……。」
「エヘン、エヘン。」クンねずみは又いやなせきばらいをやりましたので、タねずみはこんどというこんどはすっかりびっくりして半分立ちあがって、ぶるぶるふるえて眼をパチパチさせて、黙りこんでしまいました。
 クンねずみは横の方を向いて、おひげをひっぱりながら、横目でタねずみの顔を見ていましたがずうっとしばらくたってから、あらんかぎり声をひくくして、
「へい。そして。」と云いました。ところがタねずみは、もうすっかりこわくなって物が云えませんでしたから、にわかに一つていねいなおじぎをしました。そしてまるで細いかすれた声で、「さよなら。」と云ってクンねずみのおうちを出て行きました。
 クンねずみは、そこで、あおむけにねころんで、「ねずみ競争新聞」を手にとってひろげながら、
「ヘッ。タなどはなってないんだ。」とひとりごとを云いました。
 さて、「ねずみ競争新聞」というのは実にいい新聞です。これを読むと、ねずみ仲間の競争のことは何でもわかるのでした。ペねずみが、沢山とうもろこしのつぶをぬすみためて、大砂糖持ちのパねずみと意地ばりの競争をしていることでも、ハ鼠ヒ鼠フ鼠の三疋のむすめねずみが学問の競争をやって、比例の問題まで来たとき、とうとう三疋共頭がペチンと裂けたことでも何でもすっかり出ているのでした。さあ、さあ、みなさん。失敬ですが、クンねずみの、今日の新聞を読むのを、お聴きなさい。
「ええと、カマジン国の飛行機、プハラを襲うと。なるほどえらいね。これは大へんだ。まあしかし、ここまでは来ないから大丈夫だ。ええと、ツェねずみの行衛不明。ツェねずみというのはあの意地わるだな。こいつはおもしろい。
 天井うら街一番地、ツェ氏は昨夜行衛不明となりたり、本社のいちはやく探知するところによればツェ氏は数日前よりはりがねせい、ねずみとり氏と交際を結び居りしが一昨夜に至りて両氏の間に多少感情の衝突ありたるものの如し。台所街四番地ネ氏の談によれば昨夜もツェ氏は、はりがねせい、ねずみとり氏を訪問したるが如しと。尚床下通二十九番地ポ氏は、昨夜深更より今朝にかけて、ツェ氏並にはりがねせい、ねずみとり氏の、烈しき争論、時に格闘の声を聞きたりと。以上を綜合するに、本事件には、はりがねせい、ねずみとり氏、最も深き関係を有するが如し。本社は更に深く事件の真相を探知の上、大にはりがねせい、ねずみとり氏に筆誅を加えんと欲す、と。ははあ、ふん、これはもう疑もない。ツェのやつめ、ねずみとりに喰われたんだ。おもしろい、そのつぎはと。何だ、ええと、新任鼠会議員テ氏。エヘン。エヘン。エン。エッヘン。ヴェイ、ヴェイ、何だ。畜生。テなどが鼠会議員だなんて。えい、面白くない。おれでもすればいいんだ。えい。面白くない、散歩に出よう。」
 そこでクンねずみは散歩に出ました。そしてプンプン怒りながら、天井うら街の方へ行く途中で、二疋のむかでが親孝行の蜘蛛のはなしをしているのを聞きました。
「ほんとうにね。そうはできないもんだよ。」
「ええ、ええ、全くですよ。それにあの子は、自分もどこかからだが悪いんですよ。それだのにね。朝は二時ころから起きて薬を飲ませたりおかゆをたいてやったり夜だって寝るのはいつも晩いでしょう。大抵三時ころでしょう。ほんとうにからだがやすまるってないんでしょう。感心ですねい。」
「ほんとうにあんな心掛けのいい子は今頃あり……。」
「エヘン、エヘン。」と、いきなりクンねずみはどなって、おひげを横の方へひっぱりました。
 むかではびっくりして、はなしもなにもそこそこに別れて逃げて行ってしまいました。クンねずみはそれからだんだん天井うら街の方へのぼって行きました。天井うら街のガランとした広い通りでは鼠会議員のテねずみがもう一ぴきの鼠とはなしていました。クンねずみはこわれたちり取のかげで立ちぎきをして居りました。
 テねずみが、
「それで、その、わたしの考ではね、どうしても、これは、その、共同一致、団結、和睦の、セイシンで、やらんと、いかんね。」と云いました。
 クンねずみは
「エヘン、エヘン。」と聞えないようにせきばらいをしました。相手のねずみは、「へい。」と云って考えているようすです。
 テねずみははなしをつづけました。
「もしそうでないとすると、つまりその、世界のシンポハッタツカイゼンカイリョウがそのつまりテイタイするね。」
「エン、エン、エイ、エイ。」クンねずみは又ひくくせきばらいをしました。相手のねずみは「へい。」と云って考えています。
「そこで、その、世界文明のシンポハッタツカイリョウカイゼンがテイタイすると、政治は勿論ケイザイ、ノウギョウ、ジツギョウ、コウギョウ、キョウイクビジュツそれからチョウコク、カイガそれからブンガク、シバイ、ええとエンゲキ、ゲイジュツ、ゴラク、そのほかタイイクなどが、ハッハッハ、大へんそのどうもわるくなるね。」テねずみは六ヶ敷い言をあまり沢山云ったのでもう愉快でたまらないようでした。クンねずみはそれが又無暗にしゃくにさわって「エン、エン」と聞えないようにそしてできるだけ高くせきばらいをやってにぎりこぶしをかためました。相手のねずみはやはり「へい。」と云って居ります。テねずみは又はじめました。
「そこでそのケイザイやゴラクが悪くなるというと、不平を生じてブンレツを起すというケッカにホウチャクするね。そうなるのは実にそのわれわれのシンガイで、フホンイであるから、やはりその、ものごとは共同一致団結和睦のセイシンでやらんといかんね。」
 クンねずみはあんまりテねずみのことばが立派で、議論がうまく出来ているのがしゃくにさわって、とうとうあらんかぎり、
「エヘン、エヘン。」とやってしまいました。するとテねずみはぶるるっとふるえて、目を閉じて、小さく小さくちぢまりましたが、だんだんそろりそろりと延びて、そおっと目をあいて、それから大声で叫びました。
「こいつはブンレツだぞ。ブンレツ者だ。しばれ、しばれ。」と叫びました。すると相手のねずみはまるでつぶてのようにクンねずみに飛びかかって鼠のとり縄を出してクルクルしばってしまいました。
 クンねずみはくやしくてくやしくてなみだが出ましたがどうしてもかないそうがありませんでしたからしばらくじっとして居りました。するとテねずみは紙切れを出してするするするっと何か書いて捕り手のねずみに渡しました。
 捕り手のねずみは、しばられてごろごろころがっているクンねずみの前に来て、すてきに厳かな声でそれを読みはじめました。
「クンねずみはブンレツ者によりて、みんなの前にて暗殺すべし。」
 クンねずみは声をあげてチウチウなきました。
「さあ、ブンレツ者。あるけ、早く。」ととりてのねずみは云いました。さあ、そこでクンねずみはすっかり恐れ入ってしおしおと立ちあがりました。あっちからもこっちからもねずみがみんな集って来て、
「どうもいい気味だね、いつでもエヘンエヘンと云ってばかり居たやつなんだ。」
「やっぱり分裂していたんだ。」
「あいつが死んだらほんとうにせいせいするだろうね。」というような声ばかりです。
 捕り手のねずみは、いよいよ白いたすきをかけて、暗殺のしたくをはじめました。
 その時みんなのうしろの方で、フウフウというひどい音がきこえ、二つの眼玉が火のように光って来ました。それは例の猫大将でした。
「ワーッ。」とねずみはみんなちりぢり四方に逃げました。
「逃がさんぞ。コラッ。」と猫大将はその一疋を追いかけましたがもうせまいすきまへずうっと深くもぐり込んでしまったのでいくら猫大将が手をのばしてもとどきませんでした。
 猫大将は「チェッ」と舌打ちをして戻って来ましたが、クンねずみのただ一疋しばられて残っているのを見て、びっくりして云いました。
「貴様は何というものだ。」クンねずみはもう落ち着いて答えました。
「クンと申します。」
「フ、フ、そうか。なぜこんなにしているんだ。」
「暗殺される為です。」
「フ、フ、フ。そうか。それはかあいそうだ。よしよし、おれが引き受けてやろう。おれのうちへ来い。丁度おれの家では、子供が四人できて、それに家庭教師がなくて困っている所なんだ。来い。」
 猫大将はのそのそ歩き出しました。
 クンねずみはこわごわあとについて行きました。猫のおうちはどうもそれは立派なもんでした。紫色の竹で編んであって中は藁や布きれでホクホクしていました。おまけにちゃあんとご飯を入れる道具さえあったのです。
 そしてその中に、猫大将の子供が四人、やっと目をあいて、にゃあにゃあと鳴いて居りました。
 猫大将は子供らを一つずつ嘗めてやってから云いました。
「お前たちはもう学問をしないといけない。ここへ先生をたのんで来たからな。よく習うんだよ。決して先生を喰べてしまったりしてはいかんぞ。」子供らはよろこんでニヤニヤ笑って口口に、
「お父さん、ありがとう。きっと習うよ。先生を喰べてしまったりしないよ。」と云いました。
 クンねずみはどうも思わず脚がブルブルしました。猫大将が云いました。
「教えてやって呉れ。主に算術をな。」
「へい。しょう、しょう、承知いたしました。」とクンねずみが答えました。猫大将は機嫌よくニャーと鳴いてするりと向うへ行ってしまいました。
 子供らが叫びました。
「先生、早く算術を教えて下さい。先生。早く。」
 クンねずみはさあ、これはいよいよ教えないといかんと思いましたので、口早に云いました。
「一に一をたすと二です。」
「わかってるよ。」子供らが云いました。
「一から一を引くとなんにも無くなります。」
「わかったよ。」子供らが叫びました。
「一に一をかけると一です。」
「わかりました。」と猫の子供らが悧口そうに眼をパチパチさせて云いました。
「一を一で割ると一です。」
「先生、わかりました。」と猫の子供らがよろこんで叫びました。
「一に二をたすと三です。」
「わかりました。先生。」
「一からは二は引かれません。」
「わかりました。先生。」
「一に二をかけると二です。」
「わかりました。先生。」
「一を二でわると半かけです。」
「わかりました。先生」
 ところがクンねずみはあんまり猫の子供らがかしこいのですっかりしゃくにさわりました。そうでしょう。クンねずみは一番はじめの一に一をたして二をおぼえるのに半年かかったのです。
 そこで思わず、「エヘン。エヘン。エイ。エイ。」とやりました。すると猫の子供らは、しばらくびっくりしたように、顔を見合せていましたが、やがてみんな一度に立ちあがって、
「何だい。ねずめ。人をそねみやがったな。」と云いながらクンねずみの足を一ぴきが一つずつかじりました。
 クンねずみは非常にあわててばたばたして、急いで「エヘン、エヘン、エイ、エイ。」とやりましたがもういけませんでした。
 クンねずみはだんだん四方の足から食われて行ってとうとうおしまいに四ひきの子猫はクンねずみのおへその所で頭をこつんとぶっつけました。
 そこへ猫大将が帰って来て、
「何か習ったか。」とききました。
「鼠をとることです。」と四ひきが一諸に答えました。
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