宮口さんは、釣りとか麻雀とかパチンコとかカメラとか、いろいろなものに次々に溺れる人で、その没頭ぶりのすさまじさは、付き合ってみたものでなければ分らない。道楽にしては真剣すぎ、その事物に徹底的に精通しないと気のすまない質だから、元手がかかる。野球に凝れば、あれこれのポジションを廻り歩いた揚句、ルールを諳《そら》んじて審判に納まるのである。プロテクターやマスクなどの七つ道具も、むろん人から借りたりはしない、ちゃんと自分で買ってくる。
こういう気質は、おのずから藝風にもあらわれるわけで、宮口さんの演技には借物がない。そしてあくまでも没頭的、自己滅却的である。宮口さんの演じる人物の誠実、信念、細心、執着、頑固、貪欲、職業的練達などが、つねにみごとな生彩を放つのも、決して偶然ではない。
この二、三年来、服装に凝り、適度に飲みかつ遊ぶことを覚えて、夫人ともども大いに若返った。まったく憎いひとである。
——一九五七年一月 毎日マンスリー——