第143回芥川賞と直木賞の選考会が15日夜、東京で開かれ、芥川賞に赤染晶子さんの「乙女の密告」が、直木賞には中島京子さんの「小さいおうち」が選ばれました。
芥川賞の受賞が決まった赤染晶子さんは京都府舞鶴市出身の35歳。大学院を修了後、平成16年に、デビュー作の「初子さん」が文芸誌の新人賞を受賞しました。芥川賞は、今回、初めての候補で受賞を果たしました。初めての候補での芥川賞受賞は、諏訪哲史さん以来、3年ぶりです。受賞作の「乙女の密告」は、京都の外国語大学に通う女子大学生が主人公です。学生たちの間で広がるうわさ話に惑わされる主人公が、ユダヤ人の迫害を描いた「アンネの日記」に心情を重ね合わせる様子を描いています。発表後の記者会見で赤染さんは「すごく驚いています。今後も生まれ育った京都の街をユーモラスに伝え、現代の文学がテーマにしていることばやアイデンティティーといったテーマを書いていきたい」と話していました。一方、直木賞の受賞が決まった中島京子さんは東京都出身の46歳。日本語学校の教師や出版社の編集者などをへて平成15年に近代日本文学の作家・田山花袋の「蒲団」を妻の視点で書いた「FUTON」でデビューしました。著名な作品の設定を巧みに取り入れた、いわば「本歌取り」の手法による作品を発表し続け、直木賞は今回初めての候補で受賞を果たしました。受賞作の「小さいおうち」は、昭和初期から戦後にかけての東京を舞台に、郊外のある家庭の人間模様を描いた物語です。家のお手伝いさんの回想を通じて、戦争に巻き込まれていく家族の思いや秘められた恋愛などが明らかにされていきます。記者会見で中島さんは「昭和の時代に以前から興味があり、書くなら今だという思いがありました。今後も、自分でやってみたいことを次々に見つけて挑戦していくというスタイルで書いていきたい」と話しました。芥川賞と直木賞の贈呈式は来月、東京で行われます。芥川賞の選考委員の1人で作家の小川洋子さんは、受賞が決まった赤染晶子さんの「乙女の密告」について、「『アンネの日記』という歴史的な書物の中で、アンネ・フランクを密告したのは誰かという大きな問題を小説の中に取り込んで、個人のアイデンティティーの問題として、それに答えを出そうとしたという小説の作り方が非常に巧妙だ」と述べました。一方、直木賞の選考委員の1人の林真理子さんは、受賞が決まった中島京子さんの「小さいおうち」について、「戦前の中産階級の家庭が生き生きとリアルに描けており、登場人物のリアルさや戦前の資料の読み込み方も優れている」と述べました。一方で、今回の直木賞の候補作を通しては「小説が売れない時代に直木賞が大きな指針を示さなければならないなかで、受賞作も含めて小粒な作品が目立った」と辛口の評価を述べていました。