日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 村上春树 » 正文

世界尽头与冷酷仙境11

时间: 2017-02-16    进入日语论坛
核心提示: 時計の針が九時半を指すと、彼女はベッドから立ちあがって、床に落ちた服を拾いあつめ、ゆっくりと時間をかけてそれらを身につ
(单词翻译:双击或拖选)
  時計の針が九時半を指すと、彼女はベッドから立ちあがって、床に落ちた服を拾いあつめ、ゆっくりと時間をかけてそれらを身につけた。私はベッドに寝転んで|片《かた》|肘《ひじ》をついたまま、目の端っこの方でそんな彼女の姿をぼんやりと|眺《なが》めていた。彼女が一枚ずつ服を身にまとっていく様は、ほっそりとした冬の鳥のように滑らかで|無《む》|駄《だ》な動きがなく、しんとした静けさに|充《み》ちていた。彼女はスカートのジッパーを上げ、ブラウスのボタンを上から順番にはめ、最後にベッドに腰をかけてストッキングをはいた。それから私の|頬《ほお》に|唇《くちびる》をつけた。服の脱ぎ方の魅力的な女の子は数多くいても、服の着方の魅力的な女の子となるとそんなにたくさんはいない。彼女がすべての服を身につけて手の甲で上に持ちあげるようにして長い髪を整えると、部屋の空気が入れかわったような気持になった。
「どうも食事をありがとう」と彼女は言った。
「どういたしまして」と私は言った。
「いつもあれくらい自分で料理を作るの?」と彼女が|訊《き》いた。
「仕事があまり忙しくなければね」と私は言った。「仕事が忙しいときは作らない。適当に残りものを食べたり、外に出て食事したりするね」
 彼女はキッチンの|椅《い》|子《す》に座って、バッグから|煙草《た ば こ》を出して火をつけた。
「私はあまり自分では料理って作らないのよ。だいたいが料理ってそれほど好きじゃないし、それに七時前に家に帰って料理をいっぱい作ってそれをひとつ残らずたいらげちゃうことを思うと、考えただけで自分でもうんざりしちゃうのよ。それじゃまるで食べるためだけに生きてるようなものだと思わない?」
 そうかもしれない、と私も思った。
 私が服を着ているあいだに彼女はバッグから手帳をだして、ボールペンで何かを書きつけ、それをちぎって私にくれた。
「うちの電話番号」と彼女は言った。「会いたくなるか食事が余るかしたら、電話をちょうだい。すぐに来るから」
 
 彼女が返却ぶんの|哺乳類《ほにゅうるい》に関する三冊の本を手に帰ってしまうと、部屋の中は変な具合にしん[#「しん」に丸傍点]としてしまったように感じられた。私はTVの前に立ってTシャツのカバーをとり、もう一度一角獣の頭骨を眺めた。確証というほどのものは何ひとつないのだけれど、私はそれがウクライナの戦線で薄幸の若い歩兵|大《たい》|尉《い》が掘りあてた|謎《なぞ》の頭骨そのものではないかという気になりはじめていた。見れば見るほど、その頭骨には何かしらいわく[#「いわく」に丸傍点]因縁のようなものが漂っているような気がした。もちろん話を聞いたばかりなので、そういう気がするだけのことなのかもしれない。私はたいした意味もなくステンレス・スティールの|火《ひ》|箸《ばし》で、また軽く頭骨を|叩《たた》いてみた。
 それから私は食器とグラスをあつめて流しで洗い、キッチンのテーブルを|布《ふ》|巾《きん》で|拭《ふ》いた。そろそろシャッフルをはじめる時間だった。邪魔が入らないように電話を録音サービスに切りかえ、ドア・チャイムのコネクティング・コードを抜き、キッチンのライト・スタンドだけを残して家じゅうの|灯《ひ》を消した。少くとも二時間のあいだ、私は一人きりであらゆる神経をシャフリングに集中しなければならないのだ。
 私のシャフリングのパスワードは〈世界の終り〉である。私は〈世界の終り〉というタイトルのきわめて個人的なドラマに基づいて、|洗いだし《ブレイン・ウオッシュ》の済んだ数値をコンピューター計算用に並べかえるわけだ。もちろんドラマといってもそれはよくTVでやっているような種類のドラマとはまったく違う。もっとそれは混乱しているし、明確な筋もない。ただ便宜的に「ドラマ」と呼んでいるだけのことだ。しかしいずれにせよそれがどのような内容のものなのかは私にはまったく教えられてはいない。私にわかっているのはこの〈世界の終り〉というタイトルだけなのだ。
 このドラマを決定したのは『|組織《システム》』の科学者連中だった。私が計算士になるためトレーニングを一年にわたってこなし、最終試験をパスしたあとで、彼らは私を二週間冷凍し、そのあいだに私の脳波の|隅《すみ》から隅までを調べあげ、そこから私の意識の核ともいうべきものを抽出してそれを私のシャフリングのためのパス・ドラマと定め、そしてそれを今度は逆に私の脳の中にインプットしたのである。彼らはそのタイトルは〈世界の終り〉で、それが君のシャフリングのためのパスワードなのだ、と教えてくれた。そんなわけで、私の意識は完全な二重構造になっている。つまり全体としてのカオスとしての意識がまず存在し、その中にちょうど梅干しのタネのように、そのカオスを要約した意識の核が存在しているわけなのだ。
 しかし彼らはその意識の核の内容を私に教えてはくれなかった。
「それを知ることは君には不必要なのだ」と彼らは私に説明してくれた。「|何《な》|故《ぜ》なら無意識性ほど正確なものはこの世にないからだ。ある程度の年齢——我々は用心深く計算してそれを二十八歳と設定しているわけだが——に達すると人間の意識の総体というものはまず変化しない。我々が一般に意識の変革と呼称しているものは、脳全体の働きからすればとるにたらない表層的な誤差にすぎない。だからこの〈世界の終り〉という君の意識の|核《コア》は、君が息をひきとるまで変ることなく正確に君の意識の|核《コア》として機能するのだ。ここまではわかるね?」
「わかります」と私は言った。
「あらゆる種類の理論・分析は、いわば短かい針先で西瓜を分割しようとしているようなものだ。彼らは皮にしるしをつけることはできるが、果肉にまでは永遠に到達することはできない。だからこそ我々は皮と果肉とをはっきりと分離しておく必要があるのだ。もっとも世間には皮ばかりかじって喜んでいるような変った手合もいるがね」
「要するに」と彼らはつづけた。「我々は君のパス・ドラマを永遠に君自身の意識の表層的な揺り動かしから保護しておかなくてはならんのだ。もし我々が君に〈世界の終り〉とはこうこうこういうものだと内容を教えてしまったとする。つまり西瓜の皮をむいてやるようなものだな。そうすると君は間違いなくそれをいじりまわして改変してしまうだろう。ここはこうした方が良いとか、ここにこれをつけ加えようとしたりするんだ。そしてそんなことをしてしまえば、そのパス・ドラマとしての普遍性はあっという間に消滅して、シャフリングが成立しなくなってしまう」
「だから我々は君の西瓜にぶ厚い皮を与えたわけだ」とべつの一人が言った。「君はそれをコールして呼びだすことができる。なぜならそれは要するに君自身であるわけだからな。しかし君はそれを知ることはできない。すべてはカオスの海の中で行われる。つまり君は手ぶらでカオスの海に潜り、手ぶらでそこから出てくるわけだ。私の言っていることはわかるかな?」
「わかると思います」と私は言った。
「もうひとつの問題はこういうことだ」と彼らは言った。「人は自らの意識の核を明確に知るべきだろうか[#「人は自らの意識の核を明確に知るべきだろうか」に丸傍点]?」
「わかりません」と私は答えた。
「我々にもわからない」と彼らは言った。「これはいわば科学を超えた問題だな。ロス・アラモスで原爆を開発した科学者たちがぶちあたったのと同種の問題だ」
「たぶんロス・アラモスよりはもっと重大な問題だな」と一人が言った。「経験的に言って、そう結論せざるを得ないんだ。そんなわけで、これはある意味ではきわめて危険な実験であるとも言える」
「実験?」と私は言った。
「実験」と彼らは言った。「それ以上のことを君に教えるわけにはいかないんだ。申しわけないが」
 
 それから彼らは私にシャッフルの方法を教えてくれた。一人きりでやること、夜中にやること、満腹状態でもなく空腹状態でもないこと。そして定められた音声パターンを三回繰りかえして聴くこと。それによって私は〈世界の終り〉というドラマをコールすることができる。しかしそれがコールされると同時に私の意識はカオスの中に沈みこむ。私はそのカオスの中で数値をシャッフルする。シャッフルが終ると〈世界の終り〉のコールも解除され、私の意識もカオスの外に出る。シャッフルは完成し、私は何ひとつ記憶していない。逆シャッフルは文字どおりその逆である。逆シャッフルするためには逆シャッフル用の音声パターンを聴くのだ。
 それが私の中にインプットされたプログラムだった。いわば私は無意識のトンネルのごときものに過ぎないのだ。すべては私の中を通り抜けていくだけだ。だから私はシャッフルをやるたびに、ひどく無防備で不安定な気持になる。|洗いだし《ブレイン・ウオッシュ》はべつだ。洗いだしは手間はかかるけれど、それをやっている自分に対して誇りを持つことができる。あらゆる能力をそこに集中させねばならないからだ。
 それに対してシャフリング作業には誇りも能力も何もない。私は利用されているにすぎない。|誰《だれ》かが私の知らない私の意識を使って何かを私の知らないあいだに処理しているのだ。シャフリング作業に関しては、私は自分を計算士と呼ぶことさえできないような気がする。
 しかしもちろん、私には好きな計算方式を選択する権利はない。私は洗いだしとシャフリングというふたつの方式についての免許を与えられていて、それを勝手に改変することは厳しく禁じられているのだ。それが気に入らなければ、計算士を廃業するしかない。私には計算士を廃業するつもりはない。『|組織《システム》』といざこざさえおこさなければ、計算士ほど個人として自由に能力を発揮できる職は|他《ほか》にないし、収入も良い。十五年働けば、あとはのんびり暮せるくらいの金をためることができる。そのために私は気の遠くなるような倍率のテストを何回にもわたって突破し、厳しいトレーニングにも耐え抜いてきたのだ。
 
 酒の酔いはシャフリングの妨げにはならないし、どちらかといえば緊張をほぐすために適度の飲酒が|示《し》|唆《さ》されているくらいなのだが、私は私自身の主義として、シャフリングの前にはいつも体内からアルコールを抜くことにしている。とくにシャフリング方式が「凍結」されて以来もう二カ月もその作業から遠ざかっていたので、かなり注意深くそれにあたらねばならない。私は冷たいシャワーを浴び、十五分間激しい体操をし、ブラック・コーヒーを二杯飲んだ。それだけやれば大抵の酔いは消えてしまう。
 それから私は金庫を開けて、転換数値をタイプした紙と小型のテープレコーダーを出して、キッチンのテーブルに並べた。そしてきちんと削った鉛筆を五本とノートを用意し、テーブルの前に座った。
 まずテープをセットする。ヘッドフォンを耳にあててからテープをまわし、ディジタル式のテープ・カウンターを16まで進め、次に9に|戻《もど》し、再び26に進める。そしてそのまま十秒間ロックすると、カウンター・ナンバーが消え、そこから信号音が開始する。それ以外の操作が行われたときにはテープの音声は自動的に消滅することになっている。
 テープをセットし終えると、私は右に新しいノートを置き、左に転換数値を置いた。これですべての準備は終った。部屋のドアとすべての侵入可能な窓にとりつけた警報装置は〈ON〉の赤ランプをつけていた。手違いはない。手をのばしてテープレコーダーのプレイ・スウィッチを押すと信号音が始まり、やがて生あたたかい混沌が音もなくやってきて、私を|呑《の》みこんでいった。
 
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%