十月三十日。
午後一時、ニージュニウージンスクへ止る一寸前、ひどい音がして思わず首をちぢめたら自分の坐っていたすぐよこの窓ガラスの外一枚が破れている。
――小僧!
――見たの?
――三人いたんだ。一人石をひろうところ見たんだが……
モスクワを出た時車掌が入って来て、急いで窓のシェードを引きおろし、
――こうしとかなくちゃいけません。
と云った。
――何故?
――石をなげつけるんです。
自分は信じられなかったから、又、ききかえした。
――どうして?
――わるさする奴があるんです。御承知の通り。
停車したとき出て見たら、後部でもう一つの窓がやられている。そこのは石が小さかったと見えて空気銃の玉でもとび込んだように小さい穴がポツリとあいてヒビが入ってるだけである。こっちのは滅茶滅茶である。
子供はつかまったそうだ。親がえらい罰金をくうのだろう。
どっか松林の下に列車が止ってしまった。兎が見えたらしい。廊下で、
男の声 ここいらの住民は兎は食わないんです。
女の声 でも沢山とるんでしょう? カンヅメ工場でも建てりゃいいのに。
思わず答えた。それっきりしずかだ。雪の上によわい日がさしてる。今日は何度もステーションでもないところで止って後もどりしたりする。
窓ガラスが壊れて寒いので、窓の方の側へずらして帽子をかぶり、外套片袖ひっかけて浮浪児みたいな風体で坐ってる。
二人で代り番こに本の目録を作るためタイプライターをうった。