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八墓村-第八章 絶体絶命(6)

时间: 2022-06-19    进入日语论坛
核心提示:「ああ、それは私もこのあいだからそう思っていたところです。では、さっそく出かけることにしましょう」「どうです。ぼくといっ
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「ああ、それは……私もこのあいだからそう思っていたところです。では、さっそく出かけることにしましょう」

「どうです。ぼくといっしょに行きませんか。ぼくはこれから西屋へ帰るのですが……」

金田一耕助が同行をすすめるのは、村のひとたちに出会ったときの、互いの気まずさを考えてくれたからであろう。その好意に感謝して、私はいっしょに行くことにした。

「あなたはまだ西屋に……?」

「ええ、もうそろそろ、引き揚げようと思っているんですがね」

「警部さんはどうしました」

「いま岡山へ帰っていますが、二、三日したらやってくるはずです。そうそう、それで、あなたにお願いがあるんだが、警部がきたら一度みんなで集まって、こんどの事件について語りあってみたらと思うのですがね。その会場に離れを拝借できたらと思ってるんです」

別にいなむべき筋合いでもないので、私はすぐに承諾した。それからあとは別にこれという話もなく、金田一耕助はバンカチのはずれまで送ってくれると、

「じゃ、これで……お住持さんによろしく。あんまりびっくりなさらんほうがいいですよ」

と、妙なことをいうと、にやにや笑いながら、さっさと行ってしまった。私はなんだか変な気がした。またこの上に私に驚くことがあるだろうか。私はもうどんな驚きにも免疫になるほど、ひどい経験をしてきたのに。……

だが、私はまちがっていたのだ。この事件の最後において私はまた大きな驚きにぶつかったのであった。

長英さんは老病とはいえ、色いろ艶つやもよく、いかにも福々しい眉をしたお坊さんで、体も大きくよく肥えていた。中風で、起居が不自由だということだが、呂ろ律れつも別に怪しくはなかった。私がお礼のあいさつをするのを、夜具によりかかって聞いていたが、その様子がいかにもうれしそうであった。

「いや、よかった、よかった、何にしても無事でよかった。わしはちっとも知らなんだもんじゃけん、つい、打つ手がおくれてすまんことじゃった。病気が悪いときいていたが今日はよく来てくれたな」

「はい、何か私にお話があるということでしたから」

「それよ。これ、英泉、何をソワソワしてる。みっともない。もちっと落ち着いていなされ」

英泉さんはいかにも老師思いらしく、かいがいしく世話をやいているのだが、なぜか落ち着かず、それになるべく私のほうを見ないようにしているのがおかしかった。

「辰弥や、わしの話というのはこの英泉のことじゃが、聞けば英泉とおまえは、妙ないきがかりから変なことになっとるそうだが、ここはひとつ水に流してな。この英泉というのは、おまえにとっても縁のふかい男じゃけん」

「お師匠様」

「ええがな。ええがな、何もかも打ち明けてしまうと、おまえも覚悟をきめたはずじゃ。辰弥や、この英泉は、満州でひどい苦行をしてきたために、すっかり人相が変わってしまって、梅幸のほかにはだれひとり、気づくものはなかったのじゃが、これは昔、村の学校にいた、亀井陽一という先生で、おまえのおっ母さまとも、ひとかたならぬ縁のあった男じゃ」

おお、驚くなといっても、これが驚かずにいられようか。父──そうなのだ。生まれて二十八年、私ははじめて真実の父なるひとにめぐりあったのだ。私の体はわなわなふるえ、全身が燃えるように熱くなった。それは懐かしいとか憎いとかいう感情を超越した、一種得え体たいの知れぬ激情だった。私はただ無言のまま、父の横顔を凝視した。その父はただおろおろと涙ぐんで、私を正視することさえできないのだが、それにしてもだれひとり気づくもののなかったのも無理はない。それはなんというひどい変わりかたであったろう。屏風の中から発見した、あの秀麗な面影はどこにもない。風雪が美しい山容を削りとって、岩ばかりの醜い禿はげ山にするように、二十八年の歳月が、父の面影をすっかり変えてしまったのだ。

「辰弥や、おまえも亀井陽一の名は知っているとみえるな」

長英さんは私の顔色を見守っていた。私はうなずいた。そしてここで腹のさぐりあいをしているよりも、何もかも打ち明けたほうが向こうも話しよかろうと思った。

「このあいだ屏風の中から、私はそのひとと母のあいだにとりかわされた手紙を発見しました。また、母が大事にしていたらしい、そのひとの若いころの写真も見つけました」

長英さんと、英泉さんが、びっくりしたように顔を見合わせた。私は言葉をついで、

「その写真は亀井というひとの二十六、七のころの写真でしたが、その顔は……その面影はいまのぼくに生き写しです。だから私は、自分がそのひとの何に当たるかだいたい知っているつもりです」

英泉さんがいきなり両手で眼を押さえ、声をあげて泣き出した。長英さんがそれをたしなめて、

「みっともない、ええ加減にせんかい。辰弥や、皆までいうまい。しかしおまえがそこまで知っているなら話もしよい。英泉、いや亀井は二十八年まえの大事件の晚、ここに泊まっていたおかげであの災難をのがれたのじゃが、ああいうことが起こったのも、もとはといえば自分からと、一念発ほっ起き、村を出奔すると坊主になったのじゃげな。それもいちばん苦しい修行をしようと、満州の奥地で苦行僧みたいなことをしたそうな。それがこんどの戦争で、否いや応おうなしに送り帰され、やむなくわしのところへ頼ってきたのじゃが、そういうわけでおまえなども、ほったらかしですまなんだと言うてるが、何せ事情が事情じゃで、まあ、なんじゃ、堪忍しておやり」


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