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火绳枪(2)

时间: 2023-09-21    进入日语论坛
核心提示: 先にも言った通り、この離れは一軒建の洋館だったが、部屋の様子を一応申し述べてみると、東と北とは壁、そして、その隅に寝台
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 先にも言った通り、この離れは一軒建の洋館だったが、部屋の様子を一応申し述べてみると、東と北とは壁、そして、その隅に寝台が置かれ、それに並んで、洋箪笥(ようだんす)が据えてある。その真正面、つまり西側の北寄りの所が、この部屋の唯一の入口で、長い廊下を通って母屋に通えるようになっていた。南に面した方には二つの窓があり、その西側の窓の下に大きな卓子(テーブル)があって、その上にドッシリした本立(ほんたて)が置かれ、それに数冊の洋書が立ててある。その本立の傍に、台にのせた、花生けだろうが、珍らしい形をした、といってもまん丸い球形なんだが、玻璃瓶(はりびん)があって、それに一杯水がいれてあった。その前には(きわ)めて旧式な一挺の猟銃が、無雑作(むぞうさ)に投げ出されてある。その(ほか)にペンとインキ、それから手紙が一通、これが机の上に置かれた(すべ)てのものであった。卓子の前と横には型通り二脚の椅子(いす)が行儀よく据えてあった。
窓は両方共()硝子(がらす)だったが、一方の、机の前の窓はどうしたのか半開きになって、そこから陽の光りがまぶしいまでに、卓上いっぱい射し込んでいた。
橘は暫く部屋の中を見廻していたが、机の前の半ば開いた窓に近寄ると、そこからヒョイと首を出して窓の外を眺め、首を引くと、机の上の猟銃にじっと目を注いだ。次に封筒を手に取って一瞥(いちべつ)し、今度は洋服のポケットを(さぐ)って時計の(くさり)に附いた磁石を取り出し、その磁石を見ては又窓から首を出して空を眺めたり、じっと机の上を見詰たり、後を振り返って部屋の隅の寝台の方を見たり、そんな事を何遍か繰返していたが、その時、母屋の方から廊下伝いに(あわただ)しい人の足音が聞えて来た。すると、何思ったか橘は急に(あわ)てだし、ポケットから取り出した鉛筆でそそくさと机の上に猟銃の位置と玻璃瓶の位置との印をつけた。半開きになった窓にも、その開き加減を同じように鉛筆で(しるし)た。
やがて、椿事(ちんじ)の部屋にドカドカと這入(はい)って来たのは、ボーイの急報によって駈つけた警察官の一行であった。制服の警部に巡査、脊広(せびろ)服の刑事に警察医、そしてその(うしろ)には、このホテルの主人と、私達を最初この部屋に案内したさっきのボーイが、青くなって控えていた。
警察医と刑事は這入って来るなり、真直に寝台の方に歩み寄って、何かもぞもぞ調べていたが、見ていると、刑事が死体の胸のあたりから鎖の附いた懐中時計を引きずり出した。そして誰にともなく、
「やられたのは一時半だな」
(つぶ)やいた。銃弾(たま)に当った時計の針が一時半で止まっていたらしい。刑事がそうして死体を調べている間に、警部はボーイを招いて訊問を初めていた。
「被害者は昼食を食堂で済ましてから部屋に帰ったというのだな。ウン、それでお前は何か鉄砲の音のようなものを聞かなかったか」
「そういえば、お昼過ぎ、何だか大きな音がした様にも思いますが、何分(なにぶん)直ぐ裏の山で始終鉄砲の音がしているものですから、別に気にも止めませんでした」
「この机の上の銃は――火繩銃のようだが、これはどうしたのだ。被害者の物か」
そう言い(なが)ら、警部はその火繩銃を取り上げ銃口を鼻に近づけたが、思わず(つぶや)いた。
「フン、まだ煙硝(えんしょう)(におい)が残っている」
「アア、それでございますか、それはこの方の弟様ので――」
ホテルの主人が横から口をはさんだ。
「弟?」
「ハイ、二郎様と仰有(おっしゃ)いまして、矢張り手前共にお泊りで、只今お留守でございますが、母屋の方にお部屋がございます」
「じゃ、あれは? あの銃は?」
警部はなかば向きを(かえ)て、寝台の上を指さした。そこには、最新式の連発銃が、やっと手の届く程の高さの所に(かか)っていた。迂濶(うかつ)な話だが、私はそれ(まで)ちっともそれに気がつかなかった。
「あれは兄様のでございまして、あれで毎日裏山へ猟においででございました」
その時、死体から離れて窓の外を眺めていた刑事が、何を見出したのか、
「アッ、これだ」
と叫んだ。私もその声に釣られて、刑事の背後から窓の下を見ると、昨日の雨で湿った余り広くもない庭に下駄(げた)の跡がクッキリ(しる)されていた。それを見極(みきわ)めた刑事は、さも(わが)意を得たという風に、警部の方に向って、一席弁じだした。
「犯行の経路は至極簡単のようです。つまり、犯人は被害者の昼寝の習慣を知っていて、丁度被害者が寝就(ねつ)いた頃、この窓の外へ忍び寄り、静かにこの窓を開けてその火繩銃で狙撃したのです。そして銃を机の上に置いたまま逃走したという訳でしょう。ですから、被害者の日常生活をよく知っている者を調べ上げたら、犯人は(すぐ)知れるだろうと思います」
その時、廊下にバタバタと惶しい足音がして一人の青年が飛び込んで来た。二郎だ。這入って来るなり寝台の上の兄の死体の方に目を馳せたが、その顔は恐怖のあまりひどく硬張(こわば)っていた。私はなぜか、二郎の姿を見ると急に動悸(どうき)がはげしくなって来た。来てはいけない所へその人がやって来た様に思ったからだ。凡ての状況が、一人の人に向って、お前が犯人だ、と指しているではないか。火繩銃は二郎のものだし、窓の外の足跡は下駄の跡だが、今目の前にいる二郎は和服を着ている。それに、彼等兄弟の家庭内のごたごたを私はよく知っていた。

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