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魔术师-断末魔

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示:断末魔 彼は激怒した。半狂乱となった。はてはさめざめと泣き出した。両手を顔に当てて、蹲(うずくま)って血の涙を流した。 血
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断末魔


 彼は激怒した。半狂乱となった。はてはさめざめと泣き出した。両手を顔に当てて、(うずくま)って血の涙を流した。
 血の涙を流した。読者諸君、それが単なる作者の形容ではないのだ。真実、顔を覆った彼の指の間から、節くれ立った指の間から、ボトボトと真赤なしずくがたれたのだ。
 明智も、文代も、それを見るとギョッとした。くやしさに唇を噛んだ位の血の量ではなかったからだ。
「どうかしたのか。オイ、どうかしたのか」
 明智が駈け寄って、源造の顔から彼の両手を離そうとしたが、彼の手は(にかわ)づけになった様に、離れなかった。
 彼は、(うずくま)った姿勢を少しも変えず、ポトポト血をたらしながら、(きずつ)ける野獣の様に、物凄く唸るばかりだ。たまり兼ねた文代は、父の側にしゃがみ、その顔を覗く様にして泣声を立てた。
「お父さん、お父さん。どうなすったの。そんなに泣かないで下さい。あたしが悪かったわ。あたしが裏切りをしたばっかりに、お父さんをこんな目に合わせて、……でも仕方がありませんわ。いさぎよく死刑になって下さいね。あたしきっと、お父さんの死刑になるその日に死んで見せるわ、そしてあの世へ行ってから、存分孝行しますわ。それで堪忍して、ね、堪忍して!」
 叫ぶ様に喋りつづける。娘の悲痛な言葉が耳に這入ったのか、源造はやっと両手を離して、顔を上げた。だが、それは決して彼の激怒がおさまったからではなかった。顔を上げると同時に、彼の右手は、いきなり文代を突飛ばした。
 文代は「アレー」と叫んで、部屋の隅へぶっ倒れる。
「馬鹿野郎め。どいつもこいつも大馬鹿野郎め。ワハハハハハハハ」
 猛獣の咆哮(ほうこう)するが如き罵声(ばせい)が、部屋中に響き渡った。
 仁王立(におうだ)ちになった源造の顔は、赤鬼の様に血に染っていた。口から溢れる血が、両手で(おさ)えていた為に、顔中に拡がったのだ、彼は舌を噛切って自殺しようとしたのだが、気力が足らず、失敗した。怒号する声の呂律(ろれつ)が廻らぬのは、それが為だ。
「サア、どうだ。俺はこうして死ぬんだぞ。こればっかりは邪魔が出来まい。探偵さん。何をボンヤリしているんだ。折角捕えた犯人が、死骸になってしまうぜ。ホラ、俺はこうして、もう一度、ウント舌を噛めば、のたうち廻って死んでしまうんだぜ」
 わめくにつれて、傷ついた口中から、タラタラと血が流れ、顎を伝ってしたたり落ちた。
「お父さん、お父さん。堪忍して」
 突き倒された文代が、起き上って、又しても半狂乱の父親にすがりついた。
「エエ、うるさいッ。すべたの知ったことかッ」
 恐ろしい怒号と共に、彼女は再び投げ飛ばされた。
「サア、探偵さん。見ていてくれ。俺が舌を噛み切ってのたうち廻る所を。だが、その前に云って置き度いことがある。いいか。貴様は俺に勝った積りで、得意がっている様子だが、オイオイ、ボンクラ探偵さん。俺はまだまだ負けてしまったのじゃないぜ」
 源造は、血泡に染まった口辺を、ペロペロとなめずりながら、火の様な息を吐いて、怒鳴り続けた。
「俺は死ぬ。貴様の目の前で死骸になって見せてやるのだ。併しね、それで君達が安心したら、ドッコイ飛んだ間違いだぜ。玉村親子にそう云ってくれ。俺の身体は死ぬ。だが、恨みに燃えた怨霊(おんりょう)は、あいつらをみなごろしにしてしまうまでは生きているのだ。あいつらの側を一(すん)と離れず、つき(まと)っているのだ」
 血に染った口が、三日月型に、大きく大きく拡がったかと思うと、彼は已に生きながら怨霊にでもなったかの様に、不気味な声で、「ヒヒヒ……」と笑った。
 流石の明智も、この物凄い有様には、ゾッと総毛立って、答えるすべを知らなかった。
「オヤ、貴様嘘だと思っているな。ホラ、その顔に……その顔に書いてある」
 血まみれの源造が、ヒョイと手を上げて、明智の顔を指さした。
「今の世に怨霊のたたりなんてあるものかと、たかを(くく)っているんだな。だがね、探偵さん。俺は魔術師なんだ。生きている間は、あたり前の人間に真似の出来ない芸当をやって見せた俺だ。死んだからと云って、安心は出来まいぜ。俺の霊魂は俺同様に、妖術を使うのだ。ヒヒヒ……、嘘だと云うのかね。……ヒヒヒ……嘘だと云うのかね。……見ているがいい。玉村一家の奴等がどんな風にして死に絶えて行くか。よく見ているがいい」
 云い度い(だけ)云ってしまうと、彼は暫く、恐ろしい目で空間を睨んでいたが、
「サア、見てくれ。見てくれ」
 と突拍子(とっぴょうし)もない声でわめいたかと思うと、見る見る、額の血管を恐ろしい程ふくらませ、顔中を筋だらけにして、無残な泣き顔になったが、いきなりギュンと歯を噛みしめて、その場に悶絶(もんぜつ)してしまった。舌を噛み切ったのだ。
「アッ」と云って、駈け寄ったが、最早や(ほどこ)すすべもなかった。
 源造は仰向きに倒れ、手足を亀の子の様にもがきながら、断末魔の苦悶に陥っていた。もう目は黒目がつり上って、白くなり、鼻は小鼻を開いて、ヒクヒクと痙攣(けいれん)し、口は呼吸の出来ぬ苦しさに、歯をむき出し、唇を裂いて、これ以上開き様もない程、大きく大きく開き、その喉の奥に、血まみれの肉塊が、大きな(せん)の様に固っていた。噛み切られた舌が、縮み込んで、呼吸を止めてしまったのだ。
 鮮血は、泉の様に、口から顎へ、顎から床へと流れ落ちた。世にかくまで無残な死に方があるだろうか。明智は見るに耐えなかった。明智でさえそうなのだ。娘の文代が、余りの恐ろしさに気絶したのは決して無理ではない。
 彼女は父の断末魔に接し、その血みどろの形相を一目見るや、ウーンとのけぞって、そのまま気を失ってしまった。
 と同時に、明智のうしろの、ドアの側にも、別のうなり声が聞え、バッタリ人の倒れる音がした。驚いて振向くと、そこにも、気を失って倒れている女性があった。妙子だ。ただならぬ騒ぎをききつけて、彼女はいつの間にかここへ忍び出て来たのだ。そして、敵ながら、源造の恐ろしい苦悶を見て、脳貧血を起したのだ。
 明智は当惑してしまった。一人は死に(ひん)し、二人は気を失って、三人三様の姿で、ぶっ倒れている。しかも、明智の為に手を貸してくれる人とては、誰もないのだ。
 当惑して佇んでいる内に、魔術師源造は遂に動かなくなってしまった。足をふんばり、手は宙を掴んだまま、青ざめた(ろう)人形の様にほし固ってしまった。藍色(あいいろ)に近い死相と、その上を網目に流れる鮮血が、ゾッとする程物凄く見えた。
 部屋の中には、動くものとては何一つなかった。文代と妙子は死人も同然だし、当惑して立ちつくしている明智まで、生人形の様に動かなかった。
 石油ランプは、窓から忍び込む暁の光に、色うすれて、虫の鳴く様な音を立てながら明滅していた。部屋中に朝のたそがれが立ちこめて、陰気な情景を、一層陰気に描き出していた。

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