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魔术师-悪夢(1)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示:悪夢 だが、兎に角事件は落着した。あれ程世間を騒がせた怪賊魔術師も、遂に自滅してしまった。八人の部下(船中で捕えた七人と
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悪夢


 だが、兎に角事件は落着した。あれ程世間を騒がせた怪賊魔術師も、遂に自滅してしまった。八人の部下(船中で捕えた七人と、月島海岸にころがっていた一人)は、(ことごと)収監(しゅうかん)された。賊の娘の文代は、明智に味方し、実の親を捕縛させた苦衷(くちゅう)をめで、いずれは無罪放免と(きま)っていても、一応未決監(みけつかん)に収容せられた。
 玉村氏は勿論、警察でも、賊の余類がどこかに潜伏していはしないかとその点は最も厳重に訊問したが、如何なる拷問も、ないものを生み出すことは出来ぬ。文代さえも、(ほか)に余類のないことを宣誓したからには、最早疑う余地はない。賊の一味は完全に滅亡したのだ。よし又、仮令一人や二人残っていた所で、玉村氏に何の恨もない部下のものが、利益にもならぬ他人の復讐事業を続ける筈もないのだ。
 玉村家に久し振りで明るい生活が戻って来た。彼等は地底の水責めで、半病人の(てい)だったが、中にも妙子さんは、賊の恐ろしい最期を見て気絶してからというもの、大熱(たいねつ)を出して、寝込んでしまった程だが、それは肉体上のこと、精神的には、又もとののうのうした幸福な日が戻って来た。
 二ヶ月余り、何のお話もなく過去(すぎさ)った。
 怪賊のお蔭で一層有名になった、玉村宝石店は、群小同業者を圧して、メキメキと営業成績を上げて行った。家族一同の健康もすっかり恢復(かいふく)した。しかも、時は弥生(やよい)、早い桜がチラホラ咲き初めようという季節だ。父善太郎氏は勿論、兄妹達も、うって変ったこの世の楽しさに、いつしか、あのいまわしい事件のことも忘れ勝ちになって行った。
 だが、事件は果して真に落着したのであろうか。奥村源造の死に際の呪いの言葉は、単なるいやがらせに過ぎなかったのであろうか。それにしても、あの小豆色の小さな毒蛇は、一体何を意味しているのだろう。
 ある朝のこと、妙子さんと貰い子の進一少年との寝室(進一少年はこの物語の初めの方で顔を見せた切り、事件にとりまぎれ、ついその存在を忘れられていたが、彼は玉村家の血筋ではないので、賊の迫害こそ受けなかったけれど、家族一同の苦しみを、少年は少年丈けに、恐怖もし心配もしていたのだ)から、何とも形容の出来ぬ、物凄い悲鳴が、家中に響き渡った。
 まだ家族のものは、床を離れぬ早朝であったので、一同その声にハッと眼を(さま)したが、久しく忘れていた、いまわしい記憶が、ふと心の隅に(よみがえ)って来た。「又か」「又なにか恐ろしい事件が起ったのではないか」父も子もゾッと肌寒く感じないではいられなかった。
 かけつけて見ると、妙子さんは、白いベッドの上に半身を起して、開ける丈け開いた目で、キョロキョロとあたりを見廻していた。同じベッドの進一少年も、妙子さんの胸にしがみついて震えている。だが(さいわい)にも、両人ともどこも怪我をしている様子はない。
「夢を見たのか。びっくりするじゃないか」
 善太郎氏が、たしなめる様に云うと、妙子さんは強くかぶりを振って、
「夢じゃありません。たしかにこのシーツの上にとぐろを巻いていたんです。あたし、何か重くなったものだから、目を覚したのですもの。……」
「とぐろをまいていたって?」
「エエ、あなた方、今廊下で、誰かにお逢いにならなかって? 大きな、角力取(すもうと)りみたいな人に」
 それを聞くと、一同ギョッと色を変えた。角力取りみたいな男! 読者は記憶せられるであろう。第一回の殺人事件は、魔の様な巨人の仕業であったのだ。普通人の倍もある血の手型。闇の中を走り去った、七八尺もある様な大入道(おおにゅうどう)。あれだ。「角力取みたいな」という言葉が、(たちま)ちその当時の巨人の幻を描き出した。
 その後、賊は魔術師の様な怪人物と分ったので、あれも魔術的な一種の変装であったのだろうと、警察でも、明智小五郎さえも、殊更(ことさ)らその巨人について穿鑿(せんさく)をしなかった。捕縛した小賊共には一応尋ねて見たけれど、誰もその不気味なトリックを知っているものはなかった。
「角力取りだって? お前そんな奴を見たのか」
 善太郎氏はただならぬ気色(けしき)で尋ねた。
「エエ、たった今、そのドアをくぐって、出て行ったばかりなのよ。あなた方の目につかなかった(はず)がありませんわ」
「お前が、叫び声を立ててからか」
「エエ、そうよ」
「それじゃ逃げ出す暇はない。わしらは、廊下の両側からかけつけたのだから、誰かが見なければならない筈だ。一郎、二郎、お前達そんなものを見はしなかっただろうね」
「馬鹿なことがあるものですか」一郎が例によって、怪談を否定した。「僕等は勿論誰にも会やしないし、第一、そんなべら棒な大男が、家の中に這入って来る道理がないじゃありませんか。妙子は夢を見たのですよ。どうせ、胸に手でものせていたんだろう」
「イイエ、お兄さま、夢じゃないのよ。なんぼあたしでも、夢なんかでこんなに騒ぎやしませんわ」
「マアいい。それで、角力取りみたいな奴が、どうしたんだね。……君のシーツの上にとぐろでも巻いていたのかね」
 一郎はからかい顔だ。

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