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一寸法师-畸形魔(04)

时间: 2021-09-29    进入日语论坛
核心提示: 彼は大急ぎで懐中から一枚の紙幣を取出すと、それをこもの中から出ている手に握らせながら、口早にささやいた。そして、彼の小
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 彼は大急ぎで懐中から一枚の紙幣を取出すと、それをこもの中から出ている手に握らせながら、口早にささやいた。そして、彼の小さな身体は飛びはねる恰好で、(やみ)の中に消えて行った。塔の縁の下に隠れていた背広の男は、後に残った浮浪人共に見つからぬ様に反対の側からはいだして、一寸法師の跡を追った。
 六区を抜けて広い通りに出ると、深夜ながら威勢のいい野次馬(やじうま)が、チラホラかけだしていた。軒にたたずんで赤い空を眺めている人々もあった。一寸法師とその尾行者は、それらの野次馬に混って走った。そんな際に、だれも畸形児に注意する者もなかった。又尾行者も相手に気づかれる心配なく、相当接近して走ることが出来た。
 火事は合羽橋(かっぱばし)の停留所を過ぎて二三町行った清島町(きよしまちょう)の裏通りにあった。まだ警官の出張も手薄で、野次馬共は自由に火事場に近づくことが出来た。燃えているのは長屋建のかなりの住宅だった。もう五六軒は火が廻っていた。
 蒸汽ポンプの水を吸う音と、消防達の必死のかけ声の外には、妙に物音がしなかった。多勢の見物共は押し黙って、あちこちにかたまり合っていた。火は黙々として燃えた。風のない為に焔が殆ど垂直に立昇り、火の粉は見物共の頭上に落ちて来た。真赤な渦巻(うずまき)の中を縞の様にポンプの水が昇った。
 ホースを漏れる水の為に、雨降り挙句(あげく)の様な泥道を、右往左往(うおうさおう)する消防夫達に混って、狂喜の一寸法師がチョコチョコと走り廻った。彼の奇怪な顔は火焔の為に真赤に彩られ、大きな口が顔一杯にいとも不気味な嘲笑を浮べていた。彼こそはこの世に火の(わざわい)を持って来た(しょう)悪魔ではないかと思われた。
 背広の男は一方の群集に混って、()っとその様子を眺めていた。彼の顔も焔の色に染って、異常な緊張を示していた。
 だが、やがて蒸汽ポンプの威力は、さしもの火勢を徐々に(しず)めてゆき、見物達も安心したのか、一人去り二人去り、段々人数(ひとかず)が減って行った。
 一寸法師は先程からの狂乱にグッタリと疲れて、しかし同時にすっかり堪能(たんのう)した恰好で群集の列にまぎれて(もと)来た道を引返した。いうまでもなく背広の男は尾行を続けて行った。
 一寸法師は暗い町の軒下から軒下を縫って、(いたち)の様にす早く走った。足の極端に短い彼にしては驚くべき早さだった。その上、子供の様に脊が低いのと、着物の色合が保護色めいて黒っぽい為に、チラチラと隠顕(いんけん)自在のとらえ所のない(もの)()の様で、ともすれば見失い相になるのだ。背広の男はやっとの思いで尾行を続けた。

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