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妖怪博士-不可思议的盗贼

时间: 2021-10-25    进入日语论坛
核心提示:妖術「ハハハ、なあに心配しないでもいいよ。きみをとって食おうというのではない。ただな、きみにちょっとおもしろいものを見せ
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不思議な盗賊


その晩七時ごろ、泰二少年は、なにごともなかったように、おうちに帰ってきました。
おかあさまが、「泰ちゃん、どうしてこんなにおそくなったの。」と、おたずねになっても、ただ「友だちと勉強していたんです。」と答えるばかりで、なぜか、ほんとうのことを言おうとしないのでした。
おかあさまが、「泰ちゃん、ごはんまだなのでしょう。ちゃんと用意してありますから、早くおあがりなさい。」とおっしゃっても、泰二君はまるで、おかあさまや女中たちの顔を見るのがこわいとでもいうふうに、だまって勉強部屋へはいったまま、何をしているのか、コトリとも物音をたてませんでした。
いつもならば、八時ごろになりますと、おかあさまのお部屋へ来て「何かお菓子。」と、おねだりするのがくせのようになっているのですが、今夜はどうしたのか、いっこうに部屋を出てくるようすもありません。
おかあさまは、もう心配でたまらなくなったものですから、お菓子とお茶を持って、わざわざ泰二君の部屋へ、ようすを見にいかれました。すると、どうでしょう。いつもは十時ごろまでも起きている泰二君が、いつのまにかひとりでふとんをしいて、寝ているではありませんか。
「あら、もうおやすみなの? へんですわねえ、気分でも悪いんじゃない?」おかあさまが声をかけられても、泰二君は、だまりこんでいて返事もしません。そうかといって、ねむっているのではないのです。青い顔をして、マジマジと目をひらいて、何かしきりと考えごとをしているようすです。
「まあ、なぜ返事をしませんの? 何を考えこんでいるんです。何か心配なことでもあるの? それともおなかでもいたむの?」くりかえしたずねても、泰二君はだまっています。そして、じっと天井を見つめた両眼が、涙ぐんでいるように、ギラギラ光っているのです。
「泰ちゃん、ほんとうにどうしたんですの? おかあさん、心配するじゃありませんか。ね、なんとかおっしゃい。」おかあさまは、まくらもとにすわって、やさしく泰二君の肩をゆり動かしながら、真剣にたずねられます。
すると泰二君も、もうがまんができなくなったのか、涙をいっぱいためた目を、おかあさまのほうに向けて、やっと口をききました。
「おかあさん、ぼく、苦しいんです。」
「エッ、苦しいって、どこが? どこがいたむの?」おかあさまは、やさしい顔を少し左のほうにかしげて、さも心配らしく、泰二君の顔をのぞきこむようにされました。
「いいえ、痛むんじゃありません。ぼく、心配でたまらないのです。」
「ですからさ、いったい何がそんなに心配なの?」
「それが口ではいえないのです。はっきりわからないのです。でも、ぼく、今になんだかおそろしいことをしそうでしかたがないのです。ぼくの心の中へ別の人の心がはいってきて、おそろしいことを命令しているような気がしてしかたがないのです。」
それを聞いて、おかあさまはギョッとしたように、顔色を青くされました。泰二君が何をいっているのか少しもわからなかったからです。もしや頭がどうかしたのではないかと、びっくりされたのです。
「ねえ、おかあさん、ぼく、お願いがあるんだけれど……。」泰二君は、熱にうかされているような目で、さもせつなそうに言いました。
「まあ、おかしいことをいうのね。お願いだなんて。どんなこと? 早くいってごらんなさいな。おかあさん、泰ちゃんのことなら、なんでも聞いてあげてよ。」
「へんなことだけれど、おかあさん、びっくりしちゃいけませんよ。あのー、ぼくをね、身動きできないように、細引ほそびきでしばってほしいんです。」
おかあさまは、「まあ。」といわれたきり、二の句も出ぬようすで、悲しげに泰二君を見つめました。子どもがおかあさまにしばってくれとお願いするなんて、正気のさたとも思われません。泰二君は、かわいそうに、ほんとうに気がへんになったのではありますまいか。
「ねえ、おかあさん、お願いです。」
「何をいっているんです。泰ちゃん、それじょうだんなんでしょう。そんなことをいって、おかあさんをびっくりさせて、あとで笑おうと思っているんでしょう。」
「いいえ、じょうだんなんかじゃありません。ぼく、真剣なんです。ほんとうにしばってくださらないと安心ができないのです。」
「まあ、本気でそんなことをいっているの? じゃあ、わけを話してごらんなさい。おかあさんがおまえをしばったりなんかできると思って?」
「わけは、ぼくにもよくわからないのです。でも、どうしてもそうしなければ、安心できないのです。ねえおかあさん、しばってください。お願いです。でないと、ぼく、気がくるいそうなんです。」
泰二君の青ざめた顔を見ますと、何かしら心の中で、はげしく苦しみもだえていることが、はっきりわかります。気がくるいそうだというのも、まんざらうそとは思われません。
おかあさまはこまってしまいました。あいにく、おとうさまは、会社のご用で関西のほうへ旅行中ですし、ほかには召し使いばかりで、そんなときの相談相手にはなりません。
「ねえ、早くしばってください。でないと、ぼく、死にそうです。」
泰二君は、さも苦しそうに身もだえをして、ポロポロ涙をこぼしています。それを見ると、おかあさまも、むしょうに悲しくなって、じゅばんのそでで目のふちをふきました。
「いいよ、いいよ。じゃあ、おかあさんがしばってあげますからね、そんなにもがくんじゃありません。しずかにして待っていらっしゃいね。」
おかあさまは、とにかく、泰二君を安心させるために、まねごとにでも細引きでしばるほかはないと考えたのでした。そして、納戸なんどへいって、こうりをしばる細引きのたばを持って、泰二君のそばへ帰りましたが、いくら本人のたのみとはいえ、親がわが子をしばるなんて、形だけにもせよ、いやな気がするものですから、どうしたものかしら、とためらっていますと、泰二君は、そんなことはおかまいなく、早く早くとせがむのです。
やっぱりしばるほかはありません。このうえイライラさせれば、ほんとうに気がくるわないともかぎりません。それほど泰二君は真剣なのです。そこで、おかあさまは、なれぬ手つきで、さも悲しげに、ねている泰二君の手と足とに、細引きをぐるぐるまきつけて、形ばかりしばってみせました。
「もっと、きつくしばってください。どうしてもとけないように、強くむすんでください。」
「いいとも、いいとも、ウンときつくむすびましたよ。さあ、これでいいんですか。じゃあね、じっと気をしずめてね、もう何も考えないでねむるのですよ。」おかあさまは、そう言いながら、ぬいであった掛けぶとんを、泰二君の上に着せかけ、その上から、泰二君のからだを赤ん坊でもあやすように、かるくたたいてやるのでした。
しばらくそうして、ようすを見ていると泰二君は、細引きでしばってもらってやっと安心したのか、やがて、スヤスヤと静かなね息をたてて、ねむりこんでしまいました。
おかあさまは、ソッと泰二君のひたいに手をあててみましたが、べつに発熱しているようすもありません。またふとんの中へ手を入れて、泰二君のしばられている手首にさわってみても、脈搏みゃくはくもふだんと変わりはないことがわかりました。
「これならば、お医者さまをお呼びするほどのこともあるまい。まあ、あすの朝までソッとして、ようすをみてみましょう。」おかあさまは、そんなふうに考えて、そのまま自分の部屋へ帰りました。
ところがその夜ふけ、一時ごろのことです。部屋でやすんでいたおかあさまは、ふとみょうな物音に目をさましました。だれかが、廊下を足音をしのばせて歩いているような物音なのです。
おとうさまのおるす中ですし、奥の書斎には、たいせつな会社の秘密書類がしまってあるのですから、もし泥棒でもはいったのでしたら、たいへんです。おかあさまはこわいのもわすれて、ねまきのまま起きあがって、ソッと廊下へ出てみました。
大部分の電灯は消してしまってあるものですから、廊下の向こうのほうは、まっくらで見通しもききません。でも、その暗やみの中に、何かしら人間らしい黒い影が、ゆっくり動いているのが、かすかに見えるではありませんか。おかあさまは、ギョッとして、今にもさけび声をたてそうになりましたが、もしそんなことをして、賊が手むかってきてはいけないと、のどまで出た声をかみころし、なおもその人影を、じっとすかして見ました。
すると、目がなれるにつれて、暗やみの中にも、少しずつ物の形が見わけられるようになり、あやしい人影も、大きさ、輪かくだけはわかってきました。
「おや、泰ちゃんじゃないかしら。」
いかにも、その怪人物は、十二、三歳の背たけで、うしろ姿が泰二君とそっくりに見えました。
さいぜん、おかあさまは泰二君をしばりましたけれど、むろんまねごとに細引きをまきつけたばかりですから、とこうと思えば、泰二君自身でやすやすととけるのです。
おかあさまは、それが泰二君にちがいないとわかると、泥棒にはいられたよりも、もっとおそろしく感じました。いよいよ泰二君は頭がくるったのではないかしら、何かの悪魔にみいられたのではないかしら、と考えられたからです。
そこでおかあさまは、足音をしのばせて、ソッとその黒い影に近づき、
「泰ちゃん、泰ちゃん。」と、小声に呼びました。
そこまで近づいてみますと、もう、まぎれもなく、その怪人物は泰二君でした。それなのに、いくら声をかけても、まるでつんぼにでもなったように、返事もしなければ、ふりむこうとさえしないのです。
そして、グングンと廊下を進んで、おとうさまの洋室の書斎の前まで来ますと、いきなり、そのドアをひらいて中へはいっていくではありませんか。
おかあさまはあまりのきみ悪さに、もう声をかける勇気もなく、ただ胸をおどらせて、ドアの外から、わが子のしぐさを、じっと見つめているばかりです。
書斎にはいった泰二君は、まず壁のスイッチをおして、電灯をつけ、それからわき目もふらず、部屋のいっぽうのすみへ歩いていきます。
おかあさまは、ふと泰二君が夢遊病むゆうびょうにかかったのではないかと、うたがいました。夢遊病というのはねむっているまに自分では少しも知らず、寝床からぬけだして、そのへんを歩きまわる病気なのですが、泰二君が宙に目をすえて、フラフラと歩いていくようすは、なんとなくその夢遊病らしく思われるのです。
泰二君は、おとうさまの大きな机の前に近づきますと、その足をえぐって作ってある秘密の小ひきだしをあけて、一つのかぎたばをとりだしました。それからそのかぎたばを右手にぶらさげたまま、また夢遊病者のような歩き方で、いっぽうのすみにある鋼鉄製の大きな書類箱のところへ行き、その前にしゃがんで、手にしたかぎを、そこのかぎ穴へさしこみ、苦もなく書類箱のふたをあけてしまいました。
それを見ているおかあさまは、もう気が気ではありません。今、泰二君がひらいた書類箱の中には、会社のたいせつな秘密書類がおさめてあるのです。いや、会社のためにたいせつなばかりではありません。この秘密書類が、もしスパイの手にでもはいるようなことがあれば、国のためにも、たいへんな支障ししょうをきたすことになるのです。
泰二君のおとうさまは、東洋製作会社という大きな製造工場の技師長をしていられるのですが、その工場で製造している機械の部分品の、設計図とか、見積もり書とか、注文数量、引き渡し期日などを、詳細に記した書類が、ちょうど今、おとうさまの手もとに来ていて、その金庫のような書類入れの中にたいせつに保管されているのです。
おとうさまは、関西へ旅行なさるときにも、あれは会社だけの秘密ではなくて、国の秘密なのだからじゅうぶん注意するようにと、くれぐれもいいのこして出発されたほどです。
でも、たとえ泥棒がはいっても、その鋼鉄箱をひらくかぎは、大机の足の秘密のかくし場所にしまってあるのですから、まさかそれを見つけられることはあるまいと、おかあさまも気をゆるしていられたのでした。
ところが、泥棒は外からではなくて、家の中にいたのです。しかも、おとうさまとおかあさまのいちばん愛していられる泰二君なのですから、机の足の秘密も、むろん聞き知っていますし、鋼鉄箱をあけるのは、なんのぞうさもないのです。
それにしても、泰二君は気でもくるったのでしょうか。まるで泥棒のように、真夜中にソッと起きだして、書斎にしのびこみ、おとうさまのたいせつな書類箱をひらくなんて、まったく考えもおよばないおそろしいしわざではありませんか。これにはきっと、何か深いわけがあるのです。そのかげに、妖魔ののろいというようなものが、ひそんでいるにちがいありません。
やがて、泰二君は、とうとう書類箱のひきだしの中から、その秘密書類をつかみだしました。そして、もとのとおり鋼鉄箱のふたをしめ、かぎたばを秘密のかくし場所に返し、スイッチをおして電灯を消しますと、なにごともなかったかのように、また夢遊病者の歩き方で、書斎から出てくるのです。
おかあさまは、もうじっとしているわけにはいきませんでした。力ずくでも書類をうばいかえそうと、いきなり泰二君のゆくてに立ちふさがり、「泰ちゃん、おまえなにをするんです。」と、はげしい語気ごきでおしかりになりました。

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